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     初夢               菅野幸江

 

 雪深い会津にもようやく春の訪れが感じられる3月。光はネコヤナギのほっくりふくらんだ芽をやさしく包み、せせらぎはアップテンポのリズムを奏で、山々を渡る風はフルートの調べのように清らかに歌う。

 私は真っ白な飯豊山の雄姿を仰ぎ、生命の躍動する春の息吹にハイジのように胸をときめかせている。

――ああ、なんてすばらしい春なんだろう! 東京にいた頃はこんな春を味わったことがなかったような気がする。

 何度あきらめようと思ったことだろう。「公務員というおいしい職を捨てて それで失敗したらどうするのだ」と真剣に忠告してくれる友人もいた。「いい年をして、借金をかかえて苦労するなんてバカな奴」と陰口をきく者もいた。「夢を実現できるなんて素敵じゃない!頑張ってね」と応援してくれる仲間もいた。

 そう、この「ペンション・こすもす」は私達夫婦の長年の夢だったのだ。

 昨年秋 思いきってこの地にオープンして本当に良かったと、今、早春の風を呼吸しながら心から思う。

一階食堂の天井は二階までの吹き抜けになっており、二階はぐるっと食堂を見下ろす形で客室が六室並んでいる。定員18名。全室テレビ・トイレ・シャワー付、おまけに食堂奥に露天風呂有りーーが売りのペンションである。

「マスター、この手打ち蕎麦おいしいね。マスターが打ったの?」

元々照れやの夫は「マスター」なんて呼ばれるとうつむいて さっさと台所に隠れてしまう。ここはおいしい郷土料理が売り物のひとつでもある。

ありがたいことに この冬は若いスキー客や家族連れがたくさん泊まりにきてくれた。

雪が消えたら、ハイカーや釣り人達がやってくるだろう。

私は木苺やクワゴのジャムをたくさん作ってパイを焼こう。姫たけのこ煮つけ、ワラビのお浸し、山ニシンも腕によりをかけて作ろう。夫は畑にトマトやじゃがいもを植え、早朝には川魚をつりに行くだろう。  

料理もおいしい、居心地のいいペンション「こすもす」――って旅行雑誌に載ったりして・・

みんなもおいでよぉ!!福島県西会津の「こすもす」、赤いとんがり屋根に出窓のたくさんあるおしゃれなペンションだよ!!奥さんがまた酒好きで陽気な美人なんだ!?

     ~ ~ ~     ~ ~ ~     ~ ~ ~ 

……と、まあ、こんな初夢をみました。目覚めて見まわせば 相変わらずの貧乏所帯…身体もあちこち痛い中年がふたり…でも夢だけは諦めないで今年も頑張るぞっと。

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