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      吉沢元治はうたう
成瀬信彦
 
 
「はぐれた音と出会う私たちは音楽だよ。」最後に彼と会った時、
私はみたこともない吉沢元治にびっくりしました。
否定がふっとび、あるがままのムキダシの顔があらぬ方を向いていました。
私はビビリまくり、「吉沢さん」とフルエル声で呼びかけるのですが、彼は全く意に解さず、タダタダあらぬ方をみているだけ。私は見舞いにいって、おいてきぼりをお見舞いされてしまった。
車椅子に乗ったこの男は何者だ?
まるで名舞踊家のようにだじろがぬ無垢。彼は何を見ていたのか?
彼はその時、静にはげしくおどっていたにちがいない。
別れ際「一五日、みんなで楽しみにいくからネ。待っているヨ。」と声をかけたのですが、あ、これはセカしているんじゃないか、と余計な心配をした自分を後悔している。ゆっくりでいいんだ。どうだっていいんだ。
この瞬間、あなたがおどっていればいいんだ、吉沢さん。
死んだ者にはもう会えぬ。
ならば会おうゼ、生きる者。
悲観すれば笑み。
何もかも忘れてしまえ。私たちは天然だ。死も生も、有も無もクソクラエ。
私たちは天然だ。

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