No66-7 home No66-9

道中日記 8

4月23日

午前9時、目覚む。風強し。快晴。寝床で弟宛ての手紙を書く。誕生日。29歳。山崎、今朝は足のうらにこびりついたそば粉を発見、昨朝のせりふを嬉しそうに繰返す。

11時過ぎ起床。朝食竹の子尽し。庭いちめんの陽あたり。丹精の花壇。桜は山桜。庭下は実験農場。その下はなだらかにくだって渓 流、林に隠れて見えず。梢という梢が風にゆらぎ、日に輝き、天の青ふかぶかと抜ける。周囲の山に猪の主(ぬし)がいて、背みねの毛が白毛だという。高校時代の真人、校庭のはずれからUFOが飛びたつのを目撃した話。暗くて形は不分明、いろんな光がまわって全体もまわっていた由。古津、小さな鉢ものの花卉をいくつも貰って嬉しそう。

1:30、霧島神宮。新緑目の覚めるほど。御神木、樹齢750年。樹高32m 。枝ぶりちから勁し。あずま屋になった水吐きの龍から手水の石まで苔濡れぬれと鮮か。風水おみくじ皆抽く。神(じん)、通りすがりの若い女性を慕うことあまたたび。隅にはおけぬ奴なり。坂本龍馬新婚旅行の地。

旧橋渓谷展望。木橋の上からの眺め、涼気に打たれ息を呑む。渓伝いの径。路脇に溝、 澄んだせせらぎが寄り添う。地蔵多し。古津手を当て物思う様子。おたまじゃくし群れる池。奇岩そばだつ壁のごとし。水気、苔多し。露天風呂に到る。硫黄泉。ただ岩を掘り抜いただけのような造作。甚だ好まし。

10時から4時半ごろまで。夜は湯を抜いてしまう由。屋久杉の工芸展示館。霧島ガラス。龍泉の池。池から龍頭と龍尾ぬきん出る。七福の玉を負う亀。龍頭の吐く水すこぶる軟か。池に賽銭おびただし、五円玉碌青を帯ぶ。靴脱いで足を浸す。緑蔭あらたかに降る如し。 昨夏は水勢つよかった由。ポリタンク10個も20個も使って水汲みに来ている夫婦。寂びれた小体な祠。なかは空っぽ。

夕刻、長瀬宅。祭壇下は半地下の倉庫。奥の間真人の作業場。口琴づくりの道具とおぼしき鏨や鎚の類ずらり。ミキサー類、ギター。この家は競売にかけられていて、売れたら即出ていかなければならぬ由。たらの嫩葉を摘む。風冷たし。隣に一段高く、一分譲地ぶんの空き地(ここも敷地内)。中央、石垣に囲われた大木聳ゆ。馬車廻しのよう。夕空澄んで星あらわる。たらの嫩葉を天ぷらにして、夕食。ココナツオイルの風味。7時過ぎ、登志帰宅。 昼には発つと言ってたのにまだいたとて喜ぶ。にじのみさきまつり(5月1日〜5日・阿蘇百姓村)。霧島ではさんまがない、林檎がない、薩摩いもは当り外れ大きい。霧島の米はうまい。ミラクルパーラー・アンデルセンなる店の話。大分かどこかの岬の突端を聖地として、金色の巨大な仰臥仏あり。曰くマジンガーZのよう。正月に神宮前でチャイ 屋の露店。200円の札提げて神(じん)、大活躍の由。1年ぶんの食費(彼自身 の)を稼いだとか。真人製作の口琴、竹筒のケース、蓋がロックできる式。友人 作という蜻蛉玉を添えて山崎プレゼントさる。登志曰く、田舎に住んでるとかえっていろいろ変なひとが訪ねてきて面白い。 今日龍泉で汲んできた水でコーヒーを淹れ、おむすびを作って、お弁当にと持たせてくれる。破顔一笑、“食べることが大好き”

10:15、名残りを惜しみつつ辞去。車で30分ほどのところ、山の渓流の流れに温泉の湧いている場所があるという。またやはり車で30分ほど、霧島神宮の東神宮というところはゼロポイント地点、磁場最も強い地帯にあるとか。御池のほとりを登って行く由。この2ケ所、興味唆らる。いずれまた訪ねたしと思 う。途中、山上に怪しい光を見る。古津とふたり訝しむ。

午前2時40分、吉志にてガス欠。SAに野良猫跋扈。JAF、和田くん深夜にも拘わらずすこぶる爽やか。ありがとう。カセット・テープ傷み多し。蛙の唄に聞える曲。古津と大笑い。

No66-7 home No66-9