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道中日記 6

4月21日

朝8:00、目覚む。水音高し。雨と誤る。又寝。

11:00起 床。前夜2時3時までの由。昼、かぼちゃ屋、チキンカレー。混雑す。 屋久杉の壺“華厳”(文化財)、行方不明の貼り紙。又しても店のおごり。重ね重ね忝し。

1:20の船で豊住・ミントン見送る。ナカジをガイドに山崎、古津、私の4人、白谷雲水峡へ。山襞を縫って海が低くはるかに遠ざかる。雨催い。3人傘を持って車を下りる。 私は手ぶらで行く。巨木倒木入り乱れ、絡まりあい縺れあい、拉ぎあうようにして、緑の奥までしんとしている。いちめん多種多様な苔や羊歯におおわれざるところなく、見渡すかぎり大気が緑いろ、しっとりと水気を含む。人影すこし。生動の気ひしめくという感じはない。かつて生き、去ったもののおびただしさ、うずたかさを感じると言えば靡きすぎか。気配の去った気配がたたずまいをなしている。弥生杉、着生種かず多し。疲れているかに見ゆ。はじめ巨大さ・魁偉さばかりに奪われていた眼が、だんだん物の肌理(きめ)をなす微細さ・精緻さへむかう。巨大さは微細さにまみれている。まれに猿、鹿。飛流の滝。きびたき。肺腑の底まで山水の気に染まって爽やかに戻る。結局雨は降らず。帰途湧き水を引いた水飲み場あり、“不老長寿の水 益救(やく)雲水”の看板。三掬。

ピアニスト、健未路(たけびみろ)を訪ねる。山崎の知人の知人とか。店らしいがずいぶん人気のないようなところにある。プレーリー・ドッグ。2ヶ月の仔犬。烏骨鶏。店内半分近くグランドピアノ占む。コーヒーに生チョコ。屋久島一という銘水で割った三岳(焼酎)をごちそうになる。来客芳名帳に記名。1ヶ月前という最後の客が津久井郡中野、山崎陽子とある。水眠亭の近くだが山崎知らぬ由。天照大皇神の札、勾玉、仰天佇立の雷神像。雨となって辞去。ひとしきり強く降って止む。白川に近づいたところで学校帰りの手塚の娘(中3)を乗せる。部活を終えて遅くなることもあるという。街灯ひとつない道を怖くはないかと問えば、ちょっと怖い。でも月がでてる夜はとってもきれいで、月を見ながら帰るのが気もちいい。

7:00、やまびこ館。おもてで選挙演説。候補者から三岳2本差し入れ。蕎麦打ち大会。本日山崎誕生日につき、差し入れの熨斗紙に皆で寄せ書。この夜都合5回打つ。4回目は卵も使わぬ水だけの十割。うち3回は直さんが打つ。大好評を博する。浜松のギター弾き山崎(3人目の山崎)、ちょうど十割のとき現わる。昨夜はここで知りあったいまひとりと泥酔して殴りあってたらしい。一方、無事蕎麦打ち終えた山崎は、川崎の巧みなマッサージに筋も蕩けてねむる。

11時、直さん宅に引き揚げ二次会。ケンジ自家製の黒鯛の燻製、直さん自家製の飛魚燻製、生ベーコン。どれも旨い。直さん夫婦は幼稚園からの幼なじみの由。闘うオランウータンの話。インド人の歯並び美しく、頭蓋骨米経由で輸入、歯科医に売る話。ナカジ餃子づくりが得意とか。気狂いのように曝け出すひとが好きな由。蕎麦打ちと即興。豊住曰く屋久島はフリー・ジャズの島。山崎鶴の恩返しとおきみ婆さんの話。鶴うける。おきみうけず。鶴の話何度も繰返す。蛙の声かまびすし。月に川面明るし。歯をみがく。やや出血。鶏鳴聞ゆ。昨夜あの声をミント ン・豊住のはしゃぎ声と聞き違えた話。

午前2時就床。ナカジ寝袋にて同室のはずが浮れて出る。外灯をつけたまま寝る。

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