prev yukie-home next

音声パソコンインストラクター
菅野幸江
 
 視覚障害者にパソコンを教えるボランティアをしている。
視覚障害者も生協の注文を インターネットで頼めるようになったら便利なのに…との声に応えようと始まったボランティア活動に誘われたのがきっかけだった。
 全盲であれ弱視であれ 視覚障害者はとかく外出が苦手な人が多い。日本の道路は看板あり、段差あり、放置自転車ありと、決して障害者にやさしくは出来ていないことを考えるとそれは無理もないことだ。閉じこもりがちの彼らの情報を得る手段といえば大抵「つけっぱなしのテレビ」を聞く程度というのが実状なのである。
 出かけるのが危険ならば せめてネット上で友達つくろう。最新流行のファッションだってネットショッピングしよう――そんな彼らの熱い視線が結集している活動である。
 ところで、日本の18歳以上の視覚障害者が31万人もいることをご存知だろうか?そして、そのうち60歳以上が70%強を占めていることもあまり知られていないようだ。
よく「視覚障害者はみんな点字でパソコン打つんですか?」と聞かれるが、点字を読むことの出来る視覚障害者は一割程度しかいない。これは、失明原因の上位に「糖尿病性網膜症」があげられ、この病気は触覚の感度低下や認知障害を併発することが多いので、点字の学習を妨げているからだといわれている。
視覚障害者のパソコンは、音声ブラウザソフトウェアをインストールし、ショートカットキーを使って表示・入力する人が多い。日本I・B・M(株)の「ホームページ・リーダーVer3.01」、システムソリーションセンターとちぎ(株)の「XPReader」などがよく使われている。
「Alt+A」でお気に入りを開く、「スペースキー」で読み上げ開始、「Ctrl」で読み上げ中止、「Shift+Tab」でリンクに戻る等々、ショートカットキーは覚えればマウスより便利である。インストラクターの仕事は、ショートカットキーを教えたり、今出ている画面の構成を教えてあげたり、早く目的のリンクにたどり着くようアドバイスしたりするぐらいである。
 
S氏(54歳)は、4年前に薬の副作用で突然失明したとき「死のうと思った」という。失意のなかで「音声パソコン」に出会って HP検索したり、多くの人とメール交換したりするうち 新しい世界が広がっていくのを感じたという。今ではパソコンを通じた障害者の社会参加を広く呼びかける活動を精力的にこなす 明るいおじさんである。
Yさん(65歳)は、50歳を過ぎてから病気で視力を失い、手術もうまくいかず、光をわずかに感じるだけの障害者になった時、やはり失意のどん底から 血のにじむような努力でパソコンキーボードのブラインドタッチを習得したという頑張り屋のおばさんである。ネットショッピングを楽しむのはもちろん、webアクセシビィリティを求めて総務省まで出かけていく活動的な女性で私は尊敬している。
技術はぴかいちではにかみ屋のM君(21歳)(先天性全盲)や、HPビルダーという本業そっちのけで このNPO法人立ち上げに奔走してきたBさん(38歳)――みんなすばらしいスタッフばかりである。
IT革命だ、デジタルデバイト(情報格差)解消、障害者にやさしいガイドライン等、声高に言われて久しいが 現状は大企業のHPや地方自治体のHPにだって 音声ソフトが読みあげられない、あるいはリンクがわかりにくい 使い勝手の悪いものがたくさんあるのだ。音声パソコン教室を開くかたわら、企業や技術者にユーザーの声を届けたり、行政に働きかけたりする活動も私たちの重要な仕事なのである。
障害者のためになることは 高齢者にもきっとためになることだと思う。障害者や高齢者にやさしい技術や社会こそが、ユニバーサルなIT社会の到達点であろうと確信している。
 私は冒頭「パソコンを教えている」と書いた。しかし実はパソコンも人生も障害者に教えてもらっている方が多いと思っている。もっともっと知識や技術を磨かなければいけない。次回までには 私が担当する当会のホームページのURLを紹介できるよう頑張る。乞うご期待!(汗)


見本


prev yukie-home next