乱蘭通信Ｎｏ１２２／雨時々猫日和・再び猫と暮らす

　７年前に「たくま」というヒマラヤンのオス猫を病気で亡くした。８歳だった。

　家族の一員としてかわいがっていた分、その喪失感はとても大きく、変な話だが実父が亡くなった時よりも悲しくて、大泣きして、２～３年は辛い気持ちを引きずっていた。

　だから「二度と猫は飼わない、生きている猫はもう愛さない」と決心して今日まで来た。

　隣家の子どもが捨て猫を拾ってきて、それが親子間のトラブルになり、ついには家族の殴り合いの喧嘩にまで発展してしまった。おまわりさんまで来た。隣人から相談を受けた私が、原因の子猫を預かる話になったのは偶然か運命だろうか？

　７年間の私のストイックな生活を破り、約束の子猫「クロちゃん」が我が家にやってきた。たった９００ｇしかない小さな命である。腕の中でミィーミィー鳴くオス猫は、私に微かな戸惑いと確かな母性をもたらした。どうしよう…チョーかわいい…あこがれの

　私にはなんでも「とりあえず」って言う癖があるが、今度ばかりはそうもいかない。「とりあえず」預かった子猫だが、その食欲と生命力に圧倒される。ジャスコで餌とトイレ用品諸々を「とりあえず」買い揃えた。７，８５０円也。

　以前から予定が入っていた友人との熱海旅行に行くため、「クロちゃん」をペットホテルに預けることにした。一泊二日５，０００円也

　なんだか心配で旅行気分もそぞろで　翌朝急いで帰ってきた。「クロちゃん」は私の顔を見ると、うれしそうに「ミャー」と鳴いてスリスリ・ペロペロしてきた。心の中がポッとした。

　久しぶりに孫たちが遊びにやってきた。小４・小２・７ヶ月男児ばかり。

　「クロちゃん」は古くから住んでいる先輩顔で悠然と上から目線で、孫たちを威嚇する。まるで「ボクだけのバァバだぞ」と言わんばかりである。普段は抱かれるのが嫌いなくせに今日は私の膝を、孫と先を争って奪おうとしている。身分をわきまえていない様がかわいくて笑える。

　雨。今日は朝から腰が痛い。持病の腰痛が復活したらしい。しかし子猫にとっては関係ない。おなかがすいたよ、ねぇねぇ遊んで！とうるさくまとわりつき噛み付く。

　この子のためにも健康でいなくちゃとしみじみ思う。鼠のおもちゃでひとしきり遊んでやると満足して、隣でスヤスヤ眠っている。一人暮らしの我が家にするりとやって来た「猫日和」。

　明日、隣人には「クロちゃん」を正式にうちの家族にすることを伝えよう。

　１回目の猫ワクチン接種に動物病院に連れて行く。ついでに健康診断。体重がなんと１，８００ｇ。我が家に来て一ヶ月もたたないのにほぼ二倍になっている！獣医さんが言うには、「クロちゃん」は５月の初旬生まれらしく、きわめて健康・丈夫な日本猫だと。

　雨。今夏はことのほか雨が多い。洗濯物が乾かない。ぶつぶつ言いながら今日は連れ合いが入院している施設に面会に行った。彼は相変わらず精気のない目で横になっていて、私を見るとそれでもうれしそうな表情をした。歩行と排泄に問題があり　要介護度を上げないといけないとケアマネージャーに言われた。雨。心の中も雨。私の人生の洗濯物も当分乾かない…。

　２回目の猫ワクチン接種に行く。「クロちゃん」は学習したらしく、診察台の上に乗せられると大暴れ。体重２，１５０g。すごいスピードで大きくなっている。命の上向きベクトルを大いに感じる。

　「クロちゃん｣にも少しあげて二人でお祝いした。去年はひとりぼっちの誕生日だった。今年はクロちゃんがいてくれて本当にうれしいよ。二人で長生きしようね。

　アルミホイールで作ったボールを転がしてしばらく遊ぶ。今日も「猫日和」。

　少し酔っ払って９時頃帰宅。カチャっとドアを開けると　いつもは跳んで来る「クロちゃん」がいない！さして広くもない部屋中を大声で名前を呼びながらくまなく探したけれど見つからない…ここはマンションの８階。密室だから絶対にひとりで出て行くことは出来ないはず…どうしよう、神隠しに遭っちゃった…ほとんど半泣き状態。

　その時玄関の外でジジジィという蝉の鳴き声がした。もしやと思ってドアを開けると、そこには得意そうに蝉をくわえた「クロちゃん」が座っていた。彼は私が帰宅すると同時にするりと外に出て、明かりに飛んできた蝉を追いかけて遊んでいたのだ。

　二度とひとりで外に出てはいけないと、言い聞かせて抱きしめて、一件落着「猫日和」。

それにしても、たった２ヶ月しかいないのに私の心をこんなにも鷲づかみにする「男の子」っていったい何者よ？！

　と、いう訳で私はなんだか幸せな夏を過ごしております。昨年は、パソコンやトイレなど我が家のいろんな物が壊れ続け、ついには私の身体まで壊れてしまった年でしたが、今年はこのクロちゃんが福を招く猫になってくれるのでしょうか？