夜・・・想いで
星夜の真夜中過ぎ、闇に慣れた目に山の端と空を分ける線はくっきりと美くしい。その下にこんもりした丘や森や河や田圃や畑や道や藪などが微かな闇の濃淡として感じられる。
昼は「高校生を演じる役者の僕」の時間であり、人々が寝静まり人々が起きてくるまでのこの時間こそ僕が心から何の障害もなく外界とコミュニケートできる時。
二日に一度の真夜中の散歩、そして遠い日の懐かしい想いで。
その時知った。
この夜に真の暗闇など無いことを。
厚い雲がかかってもいなければ、道を踏み外すほどの漆黒はないと。
「闇」とはひとが造り出す心の闇が大多数だと。
僕の夜の散歩はその後も続いた。
くねくねと曲がる農村の道、しかも絶妙に配置された鎮守や道祖神とその回りの風景と有機的に一体化し、生き物のように曲がる。
それらに直線的に侵略してきた新興住宅地の道。
そして所々に見える鉄塔の赤い点滅。
都会近郊のこの風景も遠い懐かしい想いで、そして懐かしい青春。
真夜中の散歩こそ僕の青春の半分だった。
ゴー、グーウウウウゴー、ゴーー、と深夜便のトラックが走る国道 誰もいない国道をひたすら歩く、土煙を上げたる広い広いゴミの埋立地の荒野にでた。
汚い海を隔て見える高層ビル群、その上にまた見える赤い点滅。
都会の昼の世界は茨の刺、雑然と不調和は青春そのもの。
このゴミ世界こそ化粧を落とした都会そのものの真の姿。
そこに青春の雑然と混乱が重なり、ここが僕のいやしの場所となった。
しかし、その地下三十メートルには飲めるほどの泉が湧き、ゴミの島の上には白いちぃさな花が咲く。
その花に僕の微かな希望を重ねていた。
ずいぶん遠くなってしまった想いで。
思い出すこともたまになってしまった青春の夜の想いで。
2000 1/23 Mamoru Muto
海の見えるレストランの窓辺に腰を下ろし
キラキラ光る波の
行き交う水上バスや艀はしけやプレジャーボートや
光る波面に大きな白い線がまた一つ、また一つ
毛糸の帽子を脱ぎ、オーバーを脱ぎ、マフラーも、セーターも、
Tシャツにならなければ暑くて紅茶はすすれない。
ここは春を通り越し初夏の別世界。
ポッカリ開いた昼休みの
プラプラするには寒い北風の
飛び込んだレストランの窓辺は別世界
キラキラキラキラ別世界。
白い風が砂を巻き上げ空の青を薄める。
遠くに大型ジェットがゆっくり旋回し、
その下を鳥達が負けじと更に大きな輪を描いた。
ああもう春が近い。
こぶしが咲き、桜がさき、たんぽぽも見え、
湿度を含んだ柔らかい光が何もかも包み込む春。
終ってみればいつもただの春なのに決まっているのに
今は、ついつい夢見てしまいそうな、
初うぶに恋の夢を描いて頃に戻れそうな。
キラキラ、キラキラ、固い波の反射と
明るい日差しを感じ目を閉じた。
2000/2/25 Mamoru Muto
はる・あめ
大気庁長官声明
「五月一日現在関東以西では青葉の成長が例年通り、
思い切り呼吸 をしてください。
関東以北ではもうしばらく、呼吸時には小々遠慮
して呼吸してください。」
はるのあめはやさしく、なにもなにもつつみこむ。
花吹雪もおわり、葉桜になった染井吉野の
まだ残っている色あせたピンクのかたまりを
細い素麺すだれのような雨が濡らし、
そして、煙る遠くの屋根や野や山。
過剰な桜花の後にやってくる本当の春。
いっせいに芽吹きはじめた草木を
やわらかくつつみこむ靄。
美しい季節がようやく始まった。
バシャバシャと屋根や軒をうち、
ささくれたった心もしっとりと濡れる。
冷えておいしい空気を
胸いっぱい吸えるこの幸せ。
この嬉しさをだれにおくろうか。
'00/4 mamoru
予知
ある朝、なかなかはっきりしない意識のなか今日の予定はなどと考えていると、
ああ、そう今日の午後あいつに会うため阿佐ヶ谷の駅の改札に立っているときれいな女が僕の前を通り彼女に目を奪われていると、ドンと男がぶつかってきた。「ゴメンナサイ、ゴメンナサイ」男はちょつとよろけて足早に去って行く。男の行く手のの向こうはの並木に雨がザーザー美しい。傘が足早に動いている。
あれ、どうしてこんなことが鮮明にうかぶのだろか。
不思議はその日の午後だった。全く同じことが起こったのである。
そして、それはたまに起こり、時々となり、自分が思った時に未来が見えるようになってしまった。最近ではちょっと油断する
と、本意を無視し未来の光景が見えてしまうのである。
超能力とうらやましく思う人もいるかも知れないが、これは、僕にとっての地獄の始まりであった。
というのは僕は僕を演じるロボット、100%確定の未来は確定された未来を演技する人形になってしまったことを意味したからである。
ある朝僕は超能力者になった。そして僕は僕ではなく、僕を演じる人形になった。
しかし、世の中そう捨てたもんじゃないね。何処にでも神様はおる。
そのなのよ。そのなのよ。僕は記憶が、弱くなったのよ。
昨日何をしたのかあまり覚えていれなくなった。
そこで僕は、暇なとき弱くなった過去を空想で埋める楽しみを覚えたのだった。
明日の夜素敵な女性が寄ってきてこんな話をする。
「この前は助けていただいて有り難うございました。」
僕は何にも覚えていない。軽く笑い「どういたしまして」と答えた。
僕が彼女どう助けたというのだろか。雨が降って傘で家まで追っていたのだろか。いやいや暴漢に襲われていたのを助けたのだろか。
きっと、暗い夜道彼女の後ろから男がついて行く、おかしいと思った僕はその男の後をついていって捕まえ警察に突き出したのだ。
空想はとめどなく広がる。
2000/7/5 Mamoru Muto
風化
春の若葉青葉は初々しく、
まるで幼稚園児や小学生のようにかわいい。
花は恋する男と女。
見渡す限りの花園で咲き乱れるさまは
生あるものの甘美さを伝えて限りない。
それとは反対の
いやそれ以上に、
死んで朽ち行くものたちに
美しさを感じるのは僕だけだろか。
倒木に苔がびっしりと覆い
所々に茸がみっつよっつ見え
ちよっと触るだけで崩れる様は
なんと素敵で美しいことか。
かって雄々しい大木が
美しい花を咲かせ、その下に多くの生き物を楽しませ
倒れても美しいのはゆうに及ばず
日陰のひょろっとした朽ち木に
小さな木の芽がちょこんと出ているなど
素敵に美しく見えて仕方ない。
のたうち回るほどの不幸の数々も
殺してしまいたいほどの憎悪も
一年たち五年たち十年たち
美しい思い出となってしまうように
風化とはなんと不思議な仕組みだるか。
2000年2001年
立ち枯れたもの達の上に
僕も小さな芽を植えつけよう。
'00/9/18 Mamoru Muto
マイナー
時にはチョットマイナー気分がいい。
秋霖が一日中枯れ葉や色づいた木々を濡らし
近所の猫が遊びに来て座蒲団の上で寝ている。
チョット独りぼっちで活発になれないのがいい。
陰質が僕の心の性格。
暗い気分が全てのエネルギー源。
それが僕の故郷。
昨夜から降り始めた雨は午後になっても降り止まず、
救急車の警笛が遠くに消えて、又ひとつ大きくなり消えて行く。
薄暗い部屋に小さな明かりを点けた。
明日は人の雑踏の中に行かねばならない。
だから今日はめいっぱいマイナーで行こう。
Mamoru muto 10 Dec.'00
虫食いはっぱ
はは は葉 はは は よ ははは 虫 う 葉 虫 み み よ は 虫 虫 ゃ くゃ は は 虫虫 よく よ は は くよ うう は はは は う み うよ 葉 葉 葉は みゃ ゃ うよくゃみ は は く く うよくゃみ は は よよ うよくゃみ は は うう よくゃみ は 葉 みみ う う 虫 葉 ようみゃく ゃゃ ゃみ し うよくゃみ虫 は ようみゃくよ くくく む むし うよくゃみ 虫 は うみゃく よよ し む よくゃみ 虫 虫虫 葉 よう うう むし し ゃみ 虫虫 は 葉葉は みみ む むく 葉 は ゃゃ むしむ は 葉葉 くく ゃみうよくゃみうよ は は よよ よく 虫虫虫 葉 は ううゃみう 虫虫虫虫虫 虫 葉 は葉 みみ 虫虫虫虫虫虫 虫 はは え 葉 ゃゃ 虫虫 虫は葉は 枝だ枝 葉 よよ 虫虫 枝え は葉葉 うう 虫虫虫 だ枝 葉 みみみ は葉虫 枝え 葉葉ゃゃゃ は葉は葉は 枝だ くくく 葉葉葉はは え枝 よよよ だえだ ううう 枝枝 みみみ えだ枝 枝枝えだ え枝枝 Manoru muto 18 Dec '00