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ねこやなぎ 

     
    

     あられ降り、遠とほつ淡海あふみの、 吾跡川楊あとかはやなぎ
                               刈れども、またも生ふといふ、吾跡川楊

                                                 柿本人麻呂

                              意味: 遠江(とおとうみ)の吾跡川あどがわの猫柳ねこやなぎ)は、
                             刈っても刈っても、また生えてくるといいます。
                             「遠とほつ淡海あふみ」は、奈良の都から遠い湖、という意味で、浜名湖のことです。  

 

     山の際に雪は降りつつ、しかすがにこの河楊かはやぎは萌えにけるかも
                                                     作者不明

                               意味: 山の間に雪が降っているけどこの河楊かはやぎは芽吹いています。
                              もう春なんですね。
  

 

     かはず鳴く、六田むつたの川の、川楊かはやぎの、ねもころ見れど、飽かぬ川かも
                                                     作者: 絹きぬ

                                意味: かえる(かじか)の鳴く、六田の川の、ねこやなぎちゃんを
                               ちゃんとちゃんと見ても見飽きることのない川ですね、この川(吉野川)は



    

かわわやなぎ(ねこやなぎ、えのころやなぎ)

Salix gracilistyla Mig.    〔やなぎ料〕

 山の渓流の近くや平野の河川のあたりにはえ、時には人家にも植えられる落葉低木でたいていは叢生し、高さは0.5~2mほどである。枝は多くて、新葉は初め絹毛がある。葉ば互生して葉柄があり、長楕円形又は皮針状長楕円形で先端は短鋭尖形、基部はくさび形で、ふちには細かいきょ歯があり、支脈が多く、初めは両面に絹毛があるが、のち上面は無毛となり、下面は灰白色で手が残っている。葉柄はしばしば秋の頃肥大して、赤色となり翌春に出る若い穂を抱いていることがある。托葉は半月形である。雌雄異株。早春、葉よりも早く無柄の尾状花穂を上向きに出し、白絹毛を密生する。おばなでは上半部が黒色で先が尖り皮針形をしている包鱗の内にただ1個のおしべがあり、基部の腹面に1個の蜜腺があり、やくは紅色である。めばなの包鱗も同様で、1個のめしべがあり、基部の腹面に1個の蜜腺があり花柱は糸状で長さ2mmほど、柱頭は非常に短く四つに分かれている。果穂は多数のさく果を密につけ、一方にかたむき、さく果は絹毛を密生し熟すと2裂して白い綿によって細かい種子を飛び散らす。

 〔日本名〕川ヤナギは水辺に生えるからで、一名のネニヤナギは花穂を猫の尾になぞらえたもの。また、エノコロヤナギはの子のヤナギどいう意味でこれも花穂を犬の尾になぞらえたものである。〔漢名〕水揚は別のものである。

-牧野植物図鑑-


     

 三月は昔の暦では如月である。昔の暦は農業・自然の運行を念頭に置いた暦である。無理がなくていい、雛祭りはいまの三月三日では早すぎる。桃には早いし、何より女の子なら桜が咲き暖かになった四月上旬の方がふさわしい。旧暦の睦月は光の春。実際の春というより心の中での春。如月、三月になってようやく虫たちが出始め、蕗の薹が出、ヨモギも柔らかく天ぷらにすればおいしい。猫柳はこの季節の代表選手である。古代の人々もやってきた春への思いはいまより遙かに強かった。さて今年の春はどうなるか。 (守)

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