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人はよし 思ひ止むとも 玉かづら
   影に見えつつ 忘らえぬかも      倭姫大后


あしひきの 山かづらかげ ましばにも
   得がたきかげを 置きや枯らさむ    作者:不明


あしひきの 山縵
やまかづらの子 今日行くと
   我れに告げせば 帰り来ましを      作者:不明


見まく欲り 思ひしなへに かづらかけ
   かぐはし君を 相見つるかも       大伴家持


あしひきの 山下
やましたひかげ かづらける
   上にやさらに 梅をしのはむ       大伴家持









 ヒカゲノカズラを鬘にして飾ることは、速須佐之男命の狼藉によって天照大御神が天の岩屋戸に隠れ籠ったとき、天宇受賣命(あめのうずめのみこと)が天の香山のヒカゲノカズラの「日影」を襷にして、ツルマサキの「眞折(まさき)」を鬘に、ササを手にし、神がかりの裸踊りをして天照大御神を誘い出した『古事記』の記事が基になっていると言われる。後に『延喜式』神祇令にも新嘗祭等の祭祀において神聖な草としてヒカゲノカズラの「日影」を鬘につけることになった。









   





 ひかげのかずら     〔ひかげのかずら科〕 
Lycopodium clavatum L. var. nipponicum Nakai  
 山麓の比較的明るい所にはえる多年生常緑草本。茎は針金状で緑色、長く地上をはい2mにも達し、しばしば分枝して、白色の根を出す。葉は輪生状、またはらせん状に配列して密生し、長さ4~6mm。幅0.5mmの小形の皮針形、または線状皮針形で緑色、硬質で光沢がある。先端は鋭くとがり、長い毛状となる。ふちには微きょ歯があり、顕著な中脈がある。子囊穂は,細茎〔はっている茎から分枝して直立し葉がまばらにつき高さ8~15cm)上に2~4個生ずる。子囊穂は淡黄色、長さ3~4cmの円柱形。広卵形で先端が鋭くとがって長く伸びた胞子葉をらせん配列状に密生する、胞子葉は短柄があり、縁にはわずかにきょ歯がある。その上面基部に大型腎臓形の胞子嚢を生じ、横に裂けて、黄色の胞子を出す。胞子を石松子といい、薬用とする。
〔日本名〕 日蔭の蔓は陰地に生ずるつる植物の意味。その他にキツネノタスキ(狐の襷)テソグノタスキ、カミダスキ、ウサギノタスキ、ヤマウバノタスキ等の俗称がある。 〔漢名〕石松。
-牧野植物図鑑-




   



 今回は地味なシダ類、日陰の葛です。載せる万葉の草花も少なくなりました。その中で六首も取り上げられています。外来の植物が少なかった時代です。冬場に青々とした緑を保っていることに、霊的な生命力を感じたからです。しかし時代が下るに従い、和歌や俳句に取り上げられなくなりました。目を惹く冬場の植物が増えて来たからでしょう。   (ま)


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