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せりなずな 御形はこべら 仏の座
       すずなすずしろ これぞ七草
                    四辻の左大臣(四辻善成)

十四世紀の南北朝時代に、源氏物語の注釈書「河海抄(かかいしょう)の中で述べたのが、「春の七草」として後世定着した。





セ  リ


丈夫ますらをと 思へるものを 大刀たちきて
      かにはの田井
たいに 世理せりぞ摘みける
              薩の妙観の命婦
さつのみょうかんのみょうふ
万葉集


あかねさす 昼は田たびて ぬばたまの
        夜の暇
いとまに  摘める芹子せりこれ
                      葛城 王
かずらきの おおきみ
万葉集


食薦すごも敷き あをな煮持ち来  梁うつばり
          行縢
むかばき懸けて やすむこの君
                       長意吉麿
ながのおきまろ
(あをな=すずな)    万葉集


君がため 春の野に出でて 若菜摘む
              我が衣手に 雪は降りつつ
                         光孝天皇
古今集  百人一首


  

ナズナ(ぺんぺん草)


いもが垣根 三味線草の 花咲きぬ     蕪村

おく霜の 一味付けし 蕪かな          一茶

カナリヤの 餌に束ねたる はこべかな    子規

老いて尚 なつかしき名の 母子草      虚子


─────────────────


小諸なる古城のほとり   雲白く遊子悲しむ
緑なす繁縷は萌えず    若草も藉    島崎藤村




ハハコグサ(母子草)




──   春 の 七 草  ──

七草       現在の呼び名       英語名    科名
せり・芹      セリ  Water dropwort  セリ科
なずな・薺  ナズナ(ぺんぺん草) Shepherd's Purse アブラナ科
ごぎょう・御形  ハハコグサ(母子草)   Cudweed  キク科
はこべら・繁縷  ハコベ(蘩蔞)  chickweed ナデシコ科
ほとけのざ・仏の座  コオニタビラコ(小鬼田平子) Nipplewort  キク科
すずな・菘     カブ(蕪) Turnip アブラナ科
すずしろ・蘿蔔  ダイコン(大根) Radish アブラナ科




  

コオニタビラコ(小鬼田平子)




 日本では古くから行われており、『延喜式』には餅がゆ(望がゆ)という名称で七種がゆが登場する。餅がゆは毎年1月15日に行われ、かゆに入れていたのは米・粟・黍(きび)・稗(ひえ)・みの・胡麻・小豆の七種の穀物だった。これを食すれば邪気を払えると考えられていた。
 その後、春先(旧暦の正月は現在の2月初旬ころで春先だった)に採れる野菜を入れるようになったが、その種類は諸説あり、また、地方によっても異なっていた。現在の7種は、1362年頃に書かれた『河海抄(かかいしょう)』(四辻善成による『源氏物語』の注釈書)の「芹、なづな、御行、はくべら、仏座、すずな、すずしろ、これぞ七種」が初見とされる(ただし、歌の作者は不詳とされている)。
 江戸時代頃には武家や庶民にも定着し、幕府では公式行事として、将軍以下全ての武士が七種がゆを食べる儀礼を行っていた。





ハコベ(蘩蔞)




 古来からのことは、一ヶ月から一ヶ月半季節を下げると分りやすい。正月を春と呼ぶのは二月「ひかりの春」だからです。七草も二月ならこれらの野草も何とか探せますが、まだ大変です。季節を先取りしたいという願望がそこにあるからでしょう。健康や家族の幸福を願っての「七草粥」ならなおさらです。見つけにくい七草を探してきたからこそ、食べれば願いもかなうという信仰です。
 温室栽培のない時代、若葉や七草風習は、漬け物野菜から解放される昔の人の喜びが感じられます。僕も東北生まれなので春先の青物は待ちどうしかったことを覚えています。  (ま)




  

カブ(蕪)                 ダイコン(大根)


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