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 寛平御時后宮の歌合の歌
露ながら折りてかざさん菊の花 老いせぬ秋の久しかるべく
大江千里




 仙宮に菊を分けて人の到れる形(かた)かきたるをよめる
秋風の吹上に立てる白菊は 花かあらぬか浪の寄するか
素性法師




 菊の花のもとにて、人のひと待てるかたをよめる
濡れて干す山路の菊の露の間に いつか千年を我は経にけん  
友則




 白菊の花をよめる
花見つつ人待つ時は白妙の 袖かとのみぞあやまたれける
凡河内躬恒




 題しらず
心あてに折らばや折らん初霜の 置きまどはせる白菊の花
読人しらず

(すべて古今集より)




   





古来からさまざまな園芸種が作られ、今では原種は何かあまり分かっていないと言う。9月9日は菊の節句なのだが、古い歌を調べると晩秋の方が多い。





き く         〔きく料〕

Chrysanthemum morifolium Ramat. var. sinense Makino


 観賞植物として広く栽培する多年草で、茎はやや木質となり、高さ約1m。葉には柄があって互生し、葉身は卵形で羽状に中裂、裂片は不整の切れこみときょ歯があり、基部は心臓形となる。秋に茎の先で分枝し、頭花をつける。ふつう頭花の周辺には雄性の舌状花があり、中心には黄色で両性の管状花があってともに結実する。古来わが国で栽培し、多種の園芸品種が生まれた。わが国の正常菊の中には大菊、中菊、小菊の別あり、花形の作出系統によってさらに組分されるし、品種にいたっては数えればきりがない。また欧米で改良されたものを一まとめして洋菊と呼んでいる。栽培菊の原種については定説がなく、シマカンギク、チョウセンノギクその他、相互間の雑種説などがあるが、著者はかつてノジギク説をとなえた。
〔日本名〕漢名の音読みである。 〔漢名〕菊。

-牧野植物図鑑-











 遠い記憶の片隅に菊はある。秋の農繁期も終わり、昼の囲炉裏端で村の婆さん達が茶飲み話に耽る。嫁振舞や、孫の出来や、漬物の漬け方や話はつきることはない。朝摘んできた菊をゆでて浅漬けにしたものが、鍋のまま出されて、味を確かめている。僕も手を伸ばし口に入れた。「苦っ!」と吐き出してしまった。祖母はただ笑っているだけ、また話に没頭していった。僕は外で遊ぶより、大人達のたわいもない話を聞いているのが好きだった。
霜の降る頃、食用菊の黄色と、澄んだ青空。そんな風景が、未だに鮮明に心の奥に生きている。(M)


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