No106 prev home next

 
 
 
もののふの、八十やそ娘子をとめらが、汲み乱まがふ、
   寺井の上の、堅香子かたかごの花   大伴家持

 意味: 沢山の少女たちが水を汲んでいるような姿で寺井の上に咲いている堅香子(かたかご)の花(のなんて可憐なことだろう)。


 片栗の一つの花の花盛り        高野素十


 かたくりの明日ひらく花虔つつましき   石田あき子


 写生子に片栗の花うつむいて      茂 登


 かたくりの花すぐゆれて谷谺こだま     飯塚田鶴子


 
 
 





























かたくり(かたこ)            〔ゆり科〕
Erythronium japonicum Decne 
 北海道、本州、まれに四国の山中にはえる多年生草本、根茎は白色多肉の鱗片状で数個がつずいて地中深く横たわっている。鱗茎はゆ合して筒状となって根茎の先から直立し、長さは4cm内外あり、皮針形の柱状をして白色で厚みがある。早春に 15cm 内外の茎を1本出すが下部の方に1対の葉がある。葉には長い柄があって平開し、狭卵形または楕円形で両辺には多少の波曲があり、まれには地にしいているものもある。葉質は厚くやわらかく表面は淡緑色で紫色の斑絞がある。花は茎頂に只1個で柄の端で急に下を向き、径4~5cmで紫色でかれんである。花被片6個はせまい長皮針形、先は尖り強くそり返っている、内面の基部近くに濃紫色のW字の紋がある。雄しベ6本は長さが少し不同でやくは紫色、長さ6~8mm、広線形、柱頭は短かく3裂する。鱗茎から良質のでん粉が取れる。しかし普通町で片栗粉といって売っているのはジャガイモのでん粉である。
〔日本名〕古名をカタカゴ、それからカタコの名も出た、これは傾いた籠状の花という意味であううし、またカタクリは片栗でクリの子葉の一片に似ているという意味であろうが、本種にはぴったりせず、むしろコバイモがこれらの性質をよく示すからカタカゴの名はそれからこれへうつったものではないかという説がある。

〔漢名〕車前葉山慈姑というのは日本で作られた漢字名で正しくない。
-牧野植物図鑑-
 
 
 山梨で探したが見つからず、東京に出てきて、多摩川の土手でこの花を見つけた。片栗粉はこの球根から取れる良質の澱粉のことで、現在はじゃが芋の澱粉を使っているが名前は残った。葛粉も今はさつま芋からとると言う。林の中にあって、木々の緑が繁り光を遮る前に花を咲かせ、養分を根に貯えて一年の仕事の大半を終えてしまう。可憐とも言えるが、生命の生存の術には感動する。 (まもる)