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  馬柵ませ越しに、麦むぎむ駒こまの、
       罵らゆれど、猶なほし恋しく、思ひかねつも (作者不明)
 
 意味: 柵(さく)越しに麦(むぎ)を食べる駒(こま)  がしかられるように怒られても、なおいっそう恋しく思うのです。
 
 
 
 くへ越しに麦食む駒のはつはつに、
              あひ見し子らしあやにかなしも(作者不明)
 
 意味: 柵越しに馬が麦を食べるように、ちらっと  だけ会ったあの娘のことが、とてもいとおしい
 
 
 
 
 旅芝居穂麦がもとの鏡たて
 狐火やいづこ河内の麦畠         蕪村
 
 
 麦の秋朝のパン昼の飯焦し        鷹羽狩行
 
 
 原節子・小津安二郎麦の秋        吉田汀史 






  






単に麦というと、大麦のことを言います。日本には四世紀頃に、朝鮮半島から伝わったそうです。麦は五穀の一つで昔から重要な作物なのですが、万葉集には三首だけしか載っていません。それも「麦食む駒」と載っているのです。麦よりさらに馬が大事だったのでしょうか。
 
 
 
 
 
 

おおむぎ (ふとむぎ、かちかた)       【いね科】

  Hordeum vulgare L.var.hexastichon Aschers.

 古く日本に渡来し、作物として栽培される越年草である。茎は叢生、直立し、高さは1m位、円柱型、中空で平滑、節は無毛でやや高く、節間は長い、葉は互生し、葉身は幅広い長皮針形、幅 1~1.5cm、硬く真直で、白っぽい緑色である。葉鞘は無毛でゆるやかに茎を包む。4~5月頃に開化する。穂は太い円柱形で直立し、長さは 5~8cm、密に穂を着ける。小穂は3個ずつ一団となり軸の両側にならぶので6列に見える。小穂は卵状で長さ1cm弱、ほとんど柄はなく、1花からなる。包頴えい2個は針形、護頴えいには非常に長い芒がある。無芒の形をボウズムギという。ハダカムギ(var.nudum Hook.f.=H.nudum Ard.;H.coeleste Kaern. et Wern.)では頴果が容易に内頴から分離する特性がある。

 【漢名】大麦

えい 穎の俗字、穂先の意味       -牧野植物図鑑-













小津安二郎の「麦秋」はまだ見ていない。でもこの言葉の響きもイメージも大好きである。初夏のまぶしい光と大人の恋もしくは心の内の微妙な光と陰を感じるからです。秋という言葉の力でしょう。青葉の中にいち早い秋。いいですね。  (まもる)

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