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少 年
少年は遠くを見ていた。
村の岩山の、お不動様の祠の上から、
風に揺れる稲穂や、川や、遠くの山や空を、
何時間も眺めて過ごすことが好きだった。
見つかれば、きつく叱られる場所なのだが、
いつかこの土地を離れなくてはならない。
遠い世界への憧れとも、不安とも知れぬものがそうさせた。
それから幾十年、もう老年の入口にさしかかる。
でも、これまで、
時折少年の頃を思い出し、遠くを見続けてきた。
困難にぶつかるとそうして、乗り切って来た。
そして、これからも、
雲や山や海や空の彼方を見続けるだろう。
見える遠くではなく、まだ見えぬ遠くこそが必要だから。
2009.6.25 Mamoru Muto
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