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雲隠がくり、鳴くなる雁の、行きて居む、秋田の穂立、繁くし思ほゆ
大伴家持
意味:
  雲に隠れて鳴いている雁が降りたつ秋の田の稲穂が繁っているように、(あのひとのことが)しきりに思われます。




我が蒔ける、早稲田わさだの穂立、
作りたる、かづらぞ見つつ、偲はせ我が背
坂上大嬢だいじょう
意味:
私が蒔いて実った早稲(わせ)の田からとった稲穂で作ったかづらをみて、わたくしのことを思い出してくださいね
坂上大嬢が、稲穂で作ったかづら(髪飾りなどにしたと思われます)とともに大伴旅人に贈った歌です。




石上いそのかみ、布留ふるの早稲田わさだの、穂には出でず、
心のうちに、恋ふるこのころ
抜氣大首ぬきけのおほびと
意味:
人に目立つようなことはしないで、心の中でだけ恋しく想っているこのころ。。。




あらき田の、鹿猪田ししだの稲を、倉に上げて、
あなひねひねし、我あが恋ふらくは
忌部黒麻呂いむべのくろまろ
意味:
新しく開墾した、鹿や猪が荒らす田でとれた稲を、倉に納めて。。。あぁ、恨めしい、私の恋は。
「干稲々々志(ひねひねし)」は、収穫後の「干稲(ひね)」と"恨めしい"という意味の「ひねひねし」をかけているのですね












い ね  稲   Oryza sativa L.    〔いね科〕


  インドマレー辺の原産といわれ、古く日本に伝わった一年草である。株となり、茎は高さ50~100cm、数節があり、葉を互生する。葉は広い線形、先は次第に尖り、長さは30cm、幅は3~5mm、質はやや硬く、表面と縁はざらつき、葉舌は茎円状の皮針形で2裂する。花序は円錐形で、開花時には直立して細いが果時には垂れた「いなぽ」となる。小穂は多数、細長い花序の技に短がい小柄をもって互生し、1花からなる。包頴2片は退化。護頴と内頴がいわゆる「もみがら」である。護頴は大形の長楕円形、長さは6mm位、左右から扁平のため深い舟形となり、普通全面にあらく短かい毛があり、芒(のぎ)は短かくまたは長く、ときに全く欠く。内頴はやはり舟形で護頴とほぽ同長。雄しべは6本。茎をわらとして用いる。ウルチネ、モチイネの2種があり、また畠に作る品種をオカポという。穂の短かい矮生品(コビトイネ)、全体暗紫色のムラサキイネ等品種が大変多い。
 〔漢名〕稲。

-牧野植物図鑑-



  稲は大きくジャポニカ種とインディカ種に分かれ、アジア原産と言われてきたが、まだ野性種が見つかっていない。アジアの種とは別に西アフリカ原産のアフリカ種がある。アジア、アフリカ種の間には遺伝的に大きな違いがあり、野性種の段階で分かれたと考えられてはいるが、はっきりとは分かっていず、ジャポニカ、インディカのアジアの稲が、まだアジア原産と特定されていない。





  日本人の一番深い深層に刻まれているのがこの植物です。日本を語る時この植物を抜きには語れません。米を守るために武装したのが武士です。緻密な技術のルーツは、水田の維持管理から始まりました。桜は秋に黄金の身をつける稲の化身です。日本的会社組織は米を作る農村の社会がルーツです。お寿司は米を発酵させ魚を保存したことに始まりですし、お酒も、味噌も醤油もお米です。「日本的」と形容されるものの多くは、お米にそのルーツを見いだすことができます。(M)

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