p季節の植物のコーナーへ /  prev top p

ケヤキは、古代は槻(ツキ)と呼ばれた、
「けやけき」(目立つの意)から
「けやき」と呼ばれるようになった。










 うつせみと、思ひし時に、取り持ちて、我がふたり見し、走出はしりでの、堤つつみに立てる、槻つきの木の、こちごちの枝の、春の葉の、茂しげきがごとく、思へりし、妹いもにはあれど、

 頼めりし、子らにはあれど、世間よのなかを、背きしえねば、かぎるひの、燃ゆる荒野あらのに、白栲しろたへの、天領巾あまひれがくり、鳥じもの、朝立あさだちいまして、入日いりひなす、隠りにしかば、我妹子わぎもこが、形見かたみに置ける、みどり子の、乞ひ泣くごとに、取り与ふ、物しなければ、

 男じもの、脇ばさみ持ち、我妹子と、ふたり我が寝し、枕付く、妻屋つまやのうちに、昼はも、うらさび暮らし、夜はも、息づき明かし、嘆けども、為むすべ知らに、恋ふれども、逢ふよしをなみ、大鳥おほとりの、羽(は)がひの山に、我が恋ふる、妹はいますと、人の言へば、岩根いはねさくみて、なづみ来し、よけくもぞなき、うつせみと、思ひし妹が、玉かぎる、ほのかにだにも、見えなく思へば
柿本人麻呂
意味:
  この世に生きている思っていた時に、手をとって二人で見た走出の堤(つつみ)に立っている槻(つき)の木のあちらこちらの枝の春の葉が茂っているように思っていた妻だったけれど、
  世のならいには逆らえないので、かぎろいの燃える荒野に白い布に包まれて鳥のように朝に(あの世に)発ってしまって、隠れてしまったので、妻が形見に残したおさな子が泣くたびに与える物も無いので、男の身なれど、子を脇にはさんで、妻と二人で寝た離れの家の中で、昼は寂しく暮らして、夜はため息をついて嘆くけれど、
  どうしていいかわからず、妻を恋しがっても会うこともできないので、羽がひの山に、私の妻がいると人が言うので、岩を上ってやっとのことで来た、その甲斐(かい)もないことです。この世に私と一緒に生きていると思っていた妻が、ほのかにさえも見えないのだと思うと。
走出(はしりで)」は山の端が突き出た場所と思われます。「羽(は)がひの山」がどこかはよくわかっていません。




 池の辺の、小槻をつきの下の、小竹しのな刈りそね、それをだに、君が形見かたみに、見つつ偲しのはむ
柿本人麻呂
意味:
  池のそばの槻(つき)の下の小竹(しの)を刈らないで。それだけでも、あなたの形見(かたみ)として見て偲(しの)びましょう。




 天あま飛ぶや、軽かるの社やしろの、斎いはひ槻つき、幾代いくよまであらむ、隠こもり妻づまぞも
作者: 不明
意味:
  軽(かる)の社(やしろ)の神聖な槻(つき)の木のように、いついつまでもこのように隠(こも)り妻(づま)でいるのでしょうか。




    






けやき   Zelkova serrata Makino    〔にれ科〕


 山地にはえ、あるいは人家の周囲に植えられる落葉高木で、幹は直立してそびえ、大きいものでは高さ30m、径2mにもなり、多数の技を出、新枝には細毛がある。葉には柄があって互生し、卵形ないし卵状皮針形で先端は鋭形、基部は円形またはやや心臓形でしばしば左右不同、葉のふちにはきょ歯があり、長さ2~10cmぐらい、側脈は羽状で8~18対ある。春、新葉と同時に淡黄緑色の細花を開く。雌雄同株。おばなは数個ずつ新伎の下部に葉まってつき、がくは4~6個に深裂し、4~6個のおしぺがある。めばなは新枝の上部の葉腋に1個つき、退化したおしぺがあり、花柱は2分する。果実はゆがんだ平たい球形で堅く、径4mmぐらい、背面に稜角がある。材は賞用される。一変種にツキ(var. Tsuki Makino)がある。これは材質が良くない。ツキこは俗字として槻という字を用いる、ツキはもともとケヤキの古名であろう。
 〔日本名〕多分ケヤケキ木で顕著な樹の意味だろう。このケヤケキを木のもくめの形容にとるのは賛成出来ない。
 〔漢名〕欅は別物でクルミ科のPterocarya stenoptera DC.の漢名である。

-牧野植物図鑑-





  ケヤキの若葉ももみじも大好きです。夏のケヤキの木陰での昼寝は僕の至福のひとときなので今回載せることにした。古代は槻と呼んだらしい。槻のつく地名はこの木が何らか関係しているのでしょう。日本のこの風土を代表する木ですよね。 (M)

p prev top p