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雨の白山 巡礼する


澤村浩行

中国を 沖縄を 広島を
浜岡を 六ヶ所村を 歩いてきた
僕の歴史の その先に
そそり立っている 聖なる山へ
衣食住担いで歩いている
砂利の林道 重い雲
黒い植林だらけの楚の道を

僕の背には
毎年三万人が
自分自身を処刑する 日本
毎年四千三百人が
身元不明の行き倒れとなる 東京都
着のみ着のままの敗戦の年から
豊かで平和で平等な社会を
目ざして働き続けたというのに そして僕の背には
アジアで二千万人以上を処刑した 大日本帝国
アジアを西洋人より解放すると信じて
戦い死んでいった 三百万人の日本人
今や再び兵隊を 海外に派遣している
日本の歴史が 積み重なっている

ペット・マニュアル ペットフード
              ペット・コロニー
ペット・ピープルの信仰する
金は神なり 銀行は教会の国
活断層の導火線くわえた
五十五人のエンマ大王が君臨する国

それでも 堂々とした
ブナの原生林の奥深く
縄文人も歩いた
落ち葉フカフカの道
苔むした岩からしたたる水の道
聖なる山への道を歩いている

千九百四十五年八月十五日を
反省の機会としなかった国
それでも
競争しない 差別をしない人々
人との関係 自然との関係を
金で片づけない人々
自分自身を
閉じ込めない人々
あるべきであることは
あるべきであると実現する人々
あるべきでないことは
あるべきでないと反対する人々
地の塩となった人々が導いてくれた
聖なる山への道を歩いている

ブラ林を越えた先
黒く開いた空より 雨しきり
ざわめき波打つクマザザも
か細い尾根のハエマツも
しがみついては見降ろしている
奈落の底の雲の海

濃い霧覆う湿原に
けぶった池の古い時
赤 青 黄色 紫色の可憐な花々
濡れて清らか 色放つ
それは乳色のベールに隠れたり現れたりの道
足元に ヌルリと横切る山椒魚と
これまたやせてはいても
緑ハツラツとしたカエルの道
重い羽根休めてる
蝶もトンボも僕自信も
居るのか 居ないのかの道
この尾根の生き物
標高二千五百メートル
白一色の冬に耐えてきた

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一ヶ月前の六ヶ所村
再処理工場のすぐそばで
ただ一軒だけ土地を売らずに
耕し続けたお百姓 七十五才
「核燃なんて
推進するものも 賛成するものも
誰もが嫌なものだと思っている」と
「だから基本方針を一致させれば
歴史の流れは変わるだろう」と
「でも核の毒を自分がかぶらなければ
他人事だと思っているんだ」と
「電気必要だから原発仕方がない
核廃棄物は六ヶ所村に捨てればいい」と
「出稼ぎして家族が別れることのないように
仕事を欲しがっている」と
「民主々義とか国家とか言っても
内に入れば金だけだ」と
「国民から集めた金を
たらい廻しにしているだけだ」と
「それも戦時中からの財閥だ」と
「そして最後は誰も責任をとらない」と
「だからワシは 一坪運動続けてきた」と

そんな人達の影写る
霧雨のスクリーン
水滴浮かべた花びらひとつ
ひとつが正直な その花だけの色放つ
互いにささやく花の色

人踏みつけた跡だけえんえんと
剥き出しとされた 岩と石コロの道
濡れた蛇となってくねる道
その鎌首あげた頭には
ゴロゴロ響く黒い雲
さあ 聖なる山の頂へ

風は流れ 水は流れ 時は流れて行く
その間 僕の汗が 流れている
自分で感じ 自分で感じ 自分で学ぶ
ひとりであっても 歩き出す
その内気がつくだろう
右にも左にも前にも後ろにも斜めにも
自分の色を放ちながら
つながりあった人達 ひとりひとりの
淡々と歩む人達 ひとつとなった
大いなる歴史が登って行く

聖なる山の頂きへと
暗雲にイナズマ走る
聖なる山の頂きへと
つながりあった人達 ひとりひとりの
淡々と歩む人達ひとつとなった
大いなる心 大いなる行ない
大いなる歴史が登って行く
聖なる山の頂きへと
聖なる山の頂きへと

07年9月 東京

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