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      春の嵐

 

    春眠暁を覚えず 処々鳥を聞く

    夜来風雨の声 花落つること知る多少

 

    この詩にはまだ少し早い。

    でも、今年は春一番から何度も強い南風が吹いている。

    温かい冬、早めにやってきた春の嵐の季節。

 

    今日は夜来どころか、二日に渡って、

    がたがた窓ガラスが音を立て続けた。

 

    こんな日は異次元のものどもが風に乗って現れ、

    人々を摩不思議な世界に運ぶ。

     何かわくわくと心が踊る。

 

      そういえば、

       若い頃、心の中にはいつも風が吹いていた。

       時に苦しくなるほど吹き荒れる風に、

       僕はいつも、どこそこ彷徨さまよい歩いていた。

 

      それが、

       いつしかその風も止んでしまった。

       風のない生活にすっかり慣らされてしまった。

 

      なんとまあ

       懐かしい風の音、

       懐かしい窓ガラスの揺れる音、梢の揺れる音。

       懐かしい青春の心の中の音。

 

 

    台風並みに発達した低気圧は、各地に数々の被害をもたらした。

    すっかり、雪から雨の季節に変わってしまった。

    濡れた道には杉の枯葉があちこちに散らばり、転がり回る。

 

 

     嵐ともに季節が変わる。

      強い南風に揺り動かされ、

      諸々の春の精達が目覚める。

 

      そう、僕の内にも

       まだ知らない僕が目覚める。

       若い頃の風の季節には戻れないが。

 

Mamoru Muto 25 Feb.2004

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