pre next

         冬の日差しの中で

 

   木枯らしが吹き、

   古い街並を残す街道沿いの民家でも、

   年々、クリスマスイルミネーションが増え続け

   寒中並みに冷え込む日も多くなってきた。

 

   時は、人の都合など考えず無慈悲に過ぎて行く。

   今年も知人が一人、亦一人帰なぬ人となった。

   この世の主導権は除々に若い人に移りつつあり、

   何やら理解不能の事どももやたら多くなってきた。

 

   日々低くなる日差し。

   窓辺の日溜まりに猫の親子が眠る。  

 

 

   ふと、一つの幻想が頭の中を過よぎった。

     このまま太陽は低くなり続け、遂には昇らなくなってしまった。

     昼はなくなり、闇は亦更に深く、ますます寒さは厳しくなってゆく。

     そして、この世は、すべてが凍りつく死の世界へ落ちていった。

 

    何もかも凍てつく極地の世界。

    いつか見た南極の日食。

    昼と夜が白い地平の彼方で交差し、

    ペンギンはいっせいに不安の奇声を発した。 

    そしてこのまま、何もかも凍てつく暗黒の死へと向う

      のではないかと言う、底知れぬ不安と、陶酔。

 

   ちょつとづつ衰えて行く肉体。

   己の衰えと日差しの衰えの先に見た、

            究極のマイナスの幻想。 

 

 

   突然、「タタッーン、タタッーン」と携帯電話がなった。

   せわしく受け答えをし終えたが、もうその夢想の世界は戻って来なく、

   そこには唯、猫が日溜まりで眠りつづけているだけであった。

 

   そして、

    昔のようには夢を描けなくなった現実が、

    やんわりと、しかも重くのしかかってきた。

 

12/17 2003 Mamoru Muto     

pre next