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  地蔵の風車



 

 

  梅雨の続くある日、徹夜仕事のあけた朝、芝の増上寺の境内を通った。 今にも泣き出しそうな空に、桜やけやきの大木の緑はみずみずしく美しい。

 その 蒼とした大木の下に赤い帽子や かけをつけた地蔵が、何百と並ぶ一角がある。ここの地蔵にはおのおの風車が供えられていた。なぜ風車なのかは分からない。そして、地蔵がやたらと幼児そのものの顔である。勿論、人々の子供に対する願いがそうさせることはわかるのだが、これだけ並ぶと不気味でさえあり、殊更に異次元的な不思議な雰囲気をかもしだしている。

  持っていたカメラで、あれこれいいアングルを探していると、突然風車が止まった。人の侵入を感じ取ったのだろうか、僕の次の反応を見ているのだろうか。思わず僕もカメラを目からはなし回りを見渡した。長い沈黙がその場を支配した。突然、カラカラとまた激しく風車が回りはじめた。僕には風が強くなったとは全く感じとれなかったのだが。

7/4 まもる    

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