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春爛漫  

 

レストランの日変わりメニューのように

変わる天気

からからに干からびた空気にかわり

三日おきに降る雨は

一雨ごとにぬくみを増し

濡れるのが楽しい程までなってきた。

 

山あいの谷間には

真っ白い大きな布団のような雲が

ゆったりと横たえ、

水墨画の風景は

もう彩色された狩野派の絵に

急速に変わりつつある。

 

春爛漫

水仙が咲き、辛夷が白い花を付け、

桜と桃と山つつじがいっしょにやってきた。

そしてすぐ菜の花と待ちに待った若葉が山々を覆う。

 

激しく揺れる人の世

衰えてゆくこの体

僕にはもうついてゆけそうもない事がまたひとつ増え、

テレビのゴールデンタイムを賑わす。

 

はらはらと風に舞う桜ばな

高い梢で鳴く小鳥達

伸ばした足にとまる蜂

なんと愛らしいものたち

なんと美しい世界。

 

ふと

僕も人間の世界を離れ

彼らと同じ世界の住人なりたくかった。

 

花の精たちよ、

低くたれこめた雲よ、

君達の住む永劫の世界に僕を誘っておくれ。

 

春爛漫!

やわらかい風と明るい光。

融けそうな僕。

 

7th april Mamoru Muto

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