小春日和に芒を剥むく
行止りの山路の
日向に腰をおろし
刈ってきた芒の皮を剥むく。
バリバリ、ツルンと
つやつやしたきれいな肌が現れ、
ついつい癖になった。
心地よい微風。
枯れ葉が舞い、
枯れ草は楽しげに揺れ、
芒の白がうつくしく光る。
下だる斜面と昇る斜面。
この茶色の小宇宙の向こうは
薄紫、紺、薄紺の山々が続き
空の果てでくっきりした線を引く。
ここは春。
日向に腰をおろし
刈ってきた芒の皮を剥むく。
日当たりだけが温かい
この時刻だけの小さな春。
山また山、
そして、青空。
癖になった手は
もう、止まらない。
2thJan.1999 Mamoru Muto
春色の風
南風が雲をわきあげやって来る。
木々も喜びのダンスを踊り、
窓ガラスもガタガタと拍子を合した。
降りしきる雪に
幾重もの外套を着て
まだ、小さく身を縮める木の芽たち。
今年の春色の風は桜の甘い香りがする。
波打つ丘の向こうは、
若草が広がり、菜の花が咲き
桃の花弁はなびらが埋め尽くす桃源郷のはずだと
僕は幻想の虜になってしまった。
戻り寒の寒さに
死んだ友の顔がよぎる。
僕はまるくこたつの猫になる。
春色の光は目を開けておれないほどまぶしく
そして、遠い記憶の光と重なる。
青春の都会の公園の
つつじ咲き乱れる散歩路の
連れ立って歩くあなたと僕。
あなたは僕の前を歩き、
長い黒髪がサラサラと肩や背中を流れ、
あなたの清潔な甘い匂いが漂う。
ああ、なんとまぶしい光の季節。
ふと湧いた記憶の断片に戻れそうな
不思議な気分。
この寒さは続かない。
もう、耐える季節も
限りが見えた。
春色の風は
砂を巻き上げ木々を鳴らし、
高らかに柔らかい光の季節の到来を告げる。
今年はどんな恋が待ち受けているのだろか、
今年はどんな夢がかけ巡るだろか。
もう、待つ心は踊り始めている。
'99/2/28
Mamoru.Muto
大いなる愚直
春の雨はしっとり
若葉を濡らし
枝を濡らし
幹を濡らし
地面を濡らし
根を濡らす。
丘の上では
桜の花びらの勲章をつけた
ピエロが踊る。
やってきた春。
幸せもの達の季節。
愚直に芽吹き花開くもの達
春-メランコリー
花吹雪とともに芽吹くや
見る見る野や山々は
緑の衣で覆い尽くされた。
でも、何かちょっと
昨年までとは違った
気がする、気がしない。
今年もやってきた
美しい青葉の季節。
生きとし生きるものが
青春に戻る時。
僕の心に来た春はちょっと、
何かが変質し始めような、
変わらぬような。
メランコリー。
今年は家に閉じ込もり動かない。
何かが変わり始めたか、変わらぬか。
雲の中、フラフラフラフラ、
メランコリー。
新しい私に変わり始めたような、
ないような。
でも、そんなに悪い気がしないメランコリー。
'99 5/4 M.Muto
貴人
バーゲンで買った靴を履き
友達からもらった服着ていても
心はいつも王侯貴族。
幾千の卵子と幾兆の精子の死の上に
生まれた君は奇跡の人。
事故や病気の戦場を切り抜けてきた
君はこのうえない幸福者。
と、
風が僕に枯れ葉の勲章をおいていった。
それ時から、僕は貴族になった。
この世は何と多くの奇跡の上にあるのだろか。
この世は何と多くの幸福者の楽園だろか。
死んでいった無数の思い、
偶然に生き残った二つ三つの思い。
偶然が必然となり形あるものとして生まれる。
だから
僕はその二つ三つを飾り立てることに決めた。
馬鹿馬鹿しほど賑々にぎにぎしく、
馬鹿くさいほど派手に。
風にもらった木の葉の勲章をもらった日から
僕は貴人になった。
この世は幸福者だけの集まり。
この世は奇跡的に残ったものばかり。
Mamoru Muto '99/7/16
愛ではなく
愛ではなくて優しさが
何とはなしに人と人をつなきあわせ
別れられないほどに絡みつくと
「腐れ縁」と人は罵る
単なる暇潰しが
何となしに長く続き
人がいいと言うと趣味といい
もっとたくさんいいと言うと芸術という
'99/9
明日を見て
うだる残暑に秋風が吹き
虫たちの共演がうるさい程に鳴き始め
やっと少し脳味噌が回転し始めた。
いつも寝起きは絶望の淵を一巡りして、
死の陰との混在から始まる。
今朝きょうは、早く死んだ父の陰が過よぎった。
なんと久々の彼の登場だろか。
急に
僕はだらだらしていてはいけない。
という意識が浮かぶ。
死の淵からの脱出である。
死の淵と日常の惰性との間を
ゆっくり時間をかけ目覚めることは
自分のうちを確かめるような気がして
低血圧の特権として楽しい。
明日は何が起こるか分からない。
明るい未来と人は言うけど、
あまり信じ込まないことにしたのは、
ちょっと歳を重ねた知恵。
明日は何起こるか分からない。
未来はきっと何もない。
僕には、毎朝の死の時間のように真暗がちょうどいい。
そして、意識の回復にしたがって生まれる力だけを
素直に 信じること。
秋虫と共に少し回復した脳味噌。
淡いけど自分の命の絵の具で描くこと。
闇夜の蛍火のように。
そう、淡けど自分の光を信じること。
強い心と、強い意志を持って。
1999/9/9 Mamoru Muto
寒くなると
寒くなると火が恋しくなる。
囲炉裏火に土鍋をかけ、
台所にある残り物の大根やらねぎら
ザクザクきってほおりこみ、
鳥肉や魚などあればなおさらいい。
古い友達が遊びに来て、
湯呑みに燗した酒をなみなみとつぎ、
古い話やに盛り上がり、
古い友の消息を訪ねるなどがいい。
鰹と昆布出し汁に豆腐をいれ
葱を細長く切りこれもいれ
お酒も少し多めにコップでいれ
最後にどじょうを入れサッと蓋をする。
小さい頃雪を割ってどじょうをとった、
などと話ながら食べるのもいい。
体がほっ照ってきたら、窓を開け
草が紅葉して黄色に広がるのがいい。
アリアか古い受難曲に聞き入るのもいい。
また、ブルースもいい。
だから秋になって寒くなるのがいい。
秋雲
時には羊雲のごとく
空にぷかぷか浮きましょか。
地上は何かとせわしくて
ゴキブリのように動くのはやめましょう。
今日は気の向くまま風の向くまま
ぷかぷか、お空の散歩。
時にはすじ雲となって。
空高く飛びましょか。
今日明日のことなど皆忘れ、
悠久の時に遊びましょか。
夜になり、出てきた大きな月のした。
雲になったあなたと私のランデブー。
隠れていた草木の精達も
現れ踊っております。
黄金に反射する河や海。
雲になったあなたと私の
夜空の散歩。