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土    鍋


冬は土鍋の季節。
食材を程々の大きさに切り、土鍋に放り込み、
後はグズグズ煮込めば、たいてい美味しく出来上がる。
アクをこまめに取り、柚子などを添えれば、がくんと上品な味となる。
友達や家族で鍋を囲めば、更に美味しさが増す。

土鍋のルーツは縄文土器。
一万五千年前、この極東の島国で初めて生まれた。
泥をこね、器にし、乾かし、たき火で焼けば、水にも火にも強い器が出る。
そしてこの時、人類は「煮る」という調理法を発見したのです。
人類の食生活を根本的に変える大革命だったのです。

硬くて食べられないものを食べられる柔らさにし、
アクが強いものをアク抜きをし、
弱い毒を持つものなら、煮だしうわ水を捨てれば毒消しが出来た。
人類の食料を10倍、20倍にも拡大することが出来たのです。

そして、使う食材が混ざり合い、柔らかく豊かな味を作り出します。
それは人類が美食に目覚めた時でもあったのです。

土鍋、そのルーツは縄文土器。
土鍋を囲む姿は、一万五千年前の縄文人と、大して変わっていない。

2014.12.1 Mamoru Muto

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 世界で発掘された土器の中で一番古いのは、一万七千年前と推定される日本の縄文式土器です。四大文明でも本格的土器の使用はそれから五千年、一万年あとです。考古学では日本の土器が世界に伝播した証拠はありません。世界各地で独自に土器を開発した。というのが考古学者の意見です。

 氷河期が終わるとそれまで繁栄していた大型動物が姿を消します。人類はその多くを大型動物に頼っていたので、食糧危機に陥ることになります。そこで野生の植物を管理育成する農業が始まることになります。保存が可能な小麦、大麦、稗、粟、米などの稲科の植物は新種改良も進み、人類にとり最も大切な植物となります。狭い土地での大量の食料生産が可能となると、村に大きな人口が可能となり、村々が連帯して国家かを形成することとなります。人の集中は情報、コミュニケーションが密になることであり、そこに文明が生まれたのです。

 そこで土器の役割は大きく、鍋として、貯蔵器、食器として必要欠くべからずなものでした。そして火で焼くに続き、「煮る」という調理法が確立することになります。稲科の植物は硬く、石で砕き粉にしてパンに加工するか、土器で煮てお粥にしないと食べることが出来ません。

 日本は海洋性気候で大森林が覆っていました。ドングリ、くり、現在山菜と言われる茎や葉。貝や海藻、鮭や小動物が生息する豊かな森の中にありました。その豊かさ故に農業の本格的導入が遅れたのです。日本の新石器時代を「縄文式土器」の時代と呼ぶのは、森と土器に負うところの大きいからです。自然の食材はアクや弱い毒を有します。水でに出すことにより土器を使うことにより多くの食材を手に入れることが出来たのです。土鍋もそうですが、日本時の自然観、美意識、宗教観はこの縄文時代まで遡ることが出るものが多いのです。

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