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 さくら色の雨が降る頃 



 やさしい雨模様。
 しっとり さくらを散らし、
 柳の若芽は 鮮やかな若草色に輝く。


 春はうつろい。
 気紛れな乙女心のように
 晴は続かず、次の日は雨となり、風が吹く。
 時には大荒れとなることもあるが、
 それは、青春の優しいピンクの、
 その変化のひとつに過ぎない。


 雨はいい。特に春の雨は。


 桜の馬鹿騒ぎも ほぼ終わり、
 花散らしの雨が しっとりと降る。


 地下かこで眠っていた、思い出が
 息を吹き返し、地上いまを巡る。
 そして、
 小さな生命いのち達が空みらいへ向かって
 すくすくと伸び出す。

 4/7 2008 Mamoru Muto 

 日本人は桜の花に異常な興奮を覚える。それは病的と言っていい。どこもかしこもお祭り騒ぎである。その祭りの最期を飾るのが、しとしとと降る春雨である。この雨が病的なまでに高まった興奮を鎮め、いつもの春に戻してくれる。
 桜が咲くのが「をかし」なら桜が散るのは「あわれ」である。何やら忘れていた、古い記憶が蘇ってきた。
 仕事で寄った日本橋のコーヒーショップの窓から歩道の木々を眺めながら、空いた時間をしっとりとした気分に浸っていた。もう濡れた新芽が顔を出している。

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