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六月の雨 さみだれ


午後から降りだした雨は、夜になってもしとしと続く。
  気象台も遅い梅雨入り宣言を出した。
  久しぶりの雨に僕もしっとりとうなずいた。

六月の雨は天の恵み、この国土に住む諸々を作ってきた。
  米を育て、豊饒の秋を約束し、
  紫陽花あじさいをみずみずしく際立たせ、
  ささくれたっ肌をしっとりきめ細かくする。
  雨で内向きになった心が、
        細かいところにまで行き届く神経を養ってきた。

長雨はぬんざりするが、
  適度な雨無しには、僕の心の健康は保てない。
  傷ついた心の隅々に、優しく潤いがしみ込む。
  人には話さないことどもが蘇り、
        ゆっくり巡り、また心の奥の扉の中に納まる。


六月雨さみだれは紫。
  紫陽花あじさいに、露草つゆくさに、青紫蘇あおしそ
  杜若かきつばたに、菖蒲あやめに、花菖蒲はなしょうぶ
  梅雨つゆには紫の草花がよく合う。
  この色は、昔から最高位の色で、複雑な中間色である。
  着こなしの難しい、大いなるバランスの上にこそ合う色である。
  雨はそんな複雑さを包み込み、活力ある美しさにする力がある。

そして、蛙かわずに蛍。サクランボに、青梅あおうめ
  都会では蛙も蛍も探さないと見つからなくなしまった。
  田舎にいっても昔より少なくなってしまたのは、寂しい。
  水路がみんなコンクリートに覆われてしまったからだ。
  そして、忘れてならないのは梅。
    梅干しは日本食にはなくてはならない食品である。


雨はいい、
  初めはしとしとと、後半は雷をともない激しく、
  六月ろくがつの雨はこの国土の諸々ものを造り出してきた。
 

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