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 フセインおじさんのひげの日々

小牧もみじ 

 

 今年に入ってから東京で10万人集まればイラク攻撃は止められるという話がどことなくあった。私は止めたいと思った。

 2003年1月18日、日比谷野外音楽堂7000人。3月8日4万人。かつてはデモと言ったけれど今はピースパレードといって若者がビジュアルな感覚でなかなかよいセンスで楽しいパレードに参加できた。天気もすばらしく美しい空に恵まれた。

 3月20日、イラク攻撃はじまる。無力感。

 3月21日も良い天気だった。この日は芝公園に入りきらず地下鉄の駅からいっぱいだった。御成門の出口で友だちを待っていると、当日のプログラムを配っているおじさんが手伝えと言うのでビラ配り30分手伝ったのだが妙に受けていると思ったらなんと私のかっこがトトロだったかららしい。私の近くで資本主義がどうとかいう暗い字ばかりのチラシを配っているおじさんに「そのかっこはなんですか、たぬきですか」と聞かれたので「知らないの、トトロ、環境こそ最大の戦争破壊だし」と言って「それをいうなら戦争こそでしょ」と言われ共産主義がどうとかつまらない話になってしまった。

 東京タワーの下をまるで東京見物のようにきょろきょろしながら歩いていると江川紹子さんがカメラを私の方にむけているので撮ってもらえると思いニコッとしたら撮らずに行ってしまった。

 私はグリンピースの旗のそばでトトロの着ぐるみを着て黄色いハートのプラカードを持って歩いていた。まわりは若い人ばかりできっと私も若いと思われたのだろう。おばさんも撮ってよお。アメリカ人らしききれいな女性が私の隣のとなりにいて「トトロですね」というので「となりのトトロです」と言うと「となりのとなりのトトロですね」と言われた。このセンス、いいなあと思う。そして一人一人が個として凛としているように思えた。言外に個の思いを支え合って一瞬の連帯感に誰もが勇気と希望をおみやげにお持ち帰りいただけたかなと思う。

 これを入力しながらとにかくフセインおじさんのひげの日々は終わったとしみじみ思う。そう言えばビン・ラーディンはどうしているのだろう。どこかでみんな集まって5月の風に吹かれているのかしら。そんなわけないけどね。どうせCIAと話がついているのだろう。

 4月5日のどしゃぶりの雨と風の代々木公園に集まった多くの若者たちに、表参道で飛び入りで楽器をならしてはげましてくれたあなたに、写真を撮ってくれた外国のメディアの人に、戦争反対と叫んでいた若い女性に、どうかひとつ、この日の勇気と希望を忘れないでとおばさんは言いたい。米軍基地のある相模原から愛をこめて。

5月5日

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