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港の、葦の末葉を、誰れか手折たをりし、
  我が背子が、振る手を見むと、我れぞ手折
ちをりし
                           柿本人麻呂歌集



葦の葉に、夕霧立ちて、鴨が音の、
   寒き夕し、汝をば偲はむ
          作者: 不明


夕されば、葦辺に騒き、明け来れば、沖になづさふ、鴨すらも、
妻とたぐひて、我が尾には、霜な降りそと、
白栲
しろたへの 羽さし交へて、 うち掃はらひ、さ寝とふものを、
行く水の 帰らぬごとく、吹く風の、見えぬがごとく、
跡もなき 世の人にして、別れにし、妹が着せてし、
なれ衣 袖片
そでかた敷きて、ひとりかも寝む
                   遣新羅使の丹比大夫
たじひのまえつきみ


葦辺行く、鴨の羽交はがひに、霜降りて、
  寒き夕は、大和し思ほゆ         志貴皇子
しきのみこ


海原の ゆたけき見つつ 蘆が散る
  難波に年は 経ぬべく思ほゆ         大伴家持


以上、万葉集より








学名はPhragmites communis または Phragmites australis

Phragmites : ヨシ属、 communis : 普通の、 australis : 南方系の意味。

Phragmitesは、ギリシャ語の「垣根(phragma)」が語源。





  





こ と わ ざ


「難波の葦(アシ)は伊勢の浜荻(ハマオギ)」
物の名前が地方によって様々に異なることをいう。

「葦の髄から天井をのぞく」 せまい了見では物事を捕らえることはできないという意味。

「すべての風になびくアシ」 フランス、都合によって節操をかえることを指す。

「折れたアシ」「アシによりかかる」 イギリス、「あてにならない」という意である。

「嵐がくればオークは倒れるが、アシは立っている」 ヨーロッパにおいてアシは弱さと同時に強かな存在とされていた。











あ    し     ( よ し )        〔いね科〕
Phragmites communis Trinius
 日本各地の沼、 河岸に普通にはえる大形の多年生草本で、 高さ2~3mに達する。ふつう大群落をつくる。根茎は黄白色扁平で長く泥中に横たわり, その節力ら多数のひげ根を出す.茎は硬く、中空の円柱形で緑色、 毛はなく滑らかで節があるが、 節間は長い。茎の分枝はない。葉は2列に互生し(風向によっては片側に寄つたいわゆる片葉のアシとなる) 大形で細長い皮針形で、 長さ50cm 幅4cm程度、 先端は次第に細く尖っている。葉質はごわごわして縁はざらっいている。秋に茎の先に大形の円錐花序を出す。花序は多数の小穂からなり、 初めは紫色であるが後に紫褐色になる。小穂は5個の花で構成され、 細長く尖つている。包穎2枚には大小があるがともに護穎より短かい。花をつける小軸には絹のような花より長い毛がある。第1花の護穎はなめらかで長皮針形、 長さ1~2cmに達するが他の護穎はずっと短かく穎が長くなっている。若芽は食用になる。
 〔日本名〕 アシは桿(はし)の変化したものであろう. これをヨシというのはアシが(悪し)に通ずるのでこれを嫌つたからである。〔漢名〕 蘆。    
-牧野植物図鑑-










  今回はアシ(よし)です。弥生人が日本にやって来て、最初に開発したのが、盆地の扇状地のアシの生える湿地帯です。「葦原の中つ国」「葦原の水穂の国」とは、湿地帯に米を植えることから始め、国を作る迄大きくしたという、正しく米作民の自負と誇りの言葉です。現在大都会になっている川の河口部は洪水により大土木工事が必要で、古代人には手が付けられないかったのです。
  またアシの青々した生命力にこの上もない思いを感じていたのです。それを表したのが「ムス」(産、生す)で、命そのものなのです。息子、娘はムス+子、女ですし、結ぶは命を結ぶことだったのです。  (ま)







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