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石走る垂水の上のさわらびの
     萌え出づる春になりにけるかも    志貴皇子 
万葉集


年たけて又くふ(食)べしと思ひきや
     蕨もちひ(餅)も命なりけり        宗牧 
(?~1545)



大原の筧にうたす蕨かな   五十嵐播水
やせわらびばかり山神様の前  阿部子峡
八ヶ岳仰ぐやわらび手にあまり 及川 貞
火の山の今はさびしき蕨つむ 加賀美子麗
早蕨や天の岩戸の常濡れに   堀 葦男
蕨干す山国の日のうつくしや 大嶋白水郎
出雲への峠晴れたり発売蕨  鶯谷七菜子
日陰より声の不馴な蕨売    永作火童
山頂に海の風あり蕨狩     大沢貴恵
頂上たいふも平らに蕨山    畠山譲二




   




 醍醐天皇(平安前期)が好物としており太夫の位を授けたという言い伝えがあり、そこからわらび餅の異名を岡大夫とも言う。







わ ら び              〔うらぼし科〕
Pteridium aquilinum Kuhn
 全国至る所の山野に普通に見られる多年生草本で葉は冬枯れる。 陽当りのよい所を好む。根茎は太く径約lcm、若い部分には褐色の毛があり、 地中を長く横にはう、葉はまばらに出て高さlm以上、2mにも達する。葉柄は黄緑色で無毛なめらかであるが、基部の地中にある部分は黒色で細い毛をもつ。葉身はほぼ革質でかたく、卵状三角形、長さ幅ともに50cm以上、3回羽状に分裂し、裏面には通常柔かい毛がある。羽片は広卵形、先端は鋭尖形、小羽片は皮針形、さらに羽状に深裂する。羽片と小羽片とそれぞれその先端部は羽裂しないで多少尾状にのびる。 裂片は長楕円形で全縁、先は鈍形細脈は密に分出し、平行状に走り二又となる。胞子嚢群は連続して葉縁に沿って生じ、葉縁が裏側にそり返って包膜状とな り、その内側にある真正の包膜と合せて2枚の膜で胞子嚢i群を包む、若葉を食用とする。根茎を打ちくだいて中の澱粉をとり出し、蕨粉といい、食用、糊の原料にするし、残りの茎をわらび紐にするが耐久力がある。
  〔日本名〕ワラビは松岡静雄氏の説によれば、ワラはから(茎)に通ずるのでから(茎)め(芽)から転じたものであるという。しかしワラビのビはアケビのビと同じく食用になる実質のある物体としてのミ (実) の転化とする説の方が妥当と思われる。〔漢名〕蕨。
-牧野植物図鑑-








  早春の早蕨、灰でアク抜きをすると、美味しいおひたしになります。温室栽培野菜のなかった時期、保存していた秋野菜がなくなる時期、貴重な山菜の一つでした。勿論縄文時代から日本人が食べてきた大切な野菜です。飢饉や山間地では、殊更重要なるので、ワラビ、ゼンマイと軽蔑されて使われることありましたが、山の幸には違いありません。
 室町時代の連歌師の記録には、葛粉が混ぜてあったと言う異説がありますが、根から良質のデンプンが取れ、それは格別美味しいので、異説も色々話題になった、ということでしょう。
(ま)

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