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いちご大福
菅野 幸江


 

 50年も人間をやっていると、大抵のことには驚愕したり落胆したりしないものだが、それでもどうしようもなく疎外感を覚え、消えてしまいたくなる程落ち込む時があるものだ。特に、妙に春めいた暖かい日があったかと思うと 雪が舞うような寒い日があったりするこの時期は苦手だ。うまく体調を適応させる基本的能力がないのかもしれない。

 今週半ばもそうだった。大切な人との会話に不用意に紛れ込んでしまった私の言葉のガラス破片――取り戻すすべもなく相手の心を見失ったまま別れてきた。悪いのは私…。

 そして金曜日。先日少し自信を持って受験した「パソコン技能検定1級試験」の結果がきた。「不合格」――予感はしていたけど100点満点70点合格の65点はやっぱり口惜しい。がっくりしながら地下鉄に乗った。今度はとんだ方向違いで、お腹をすかせて寒い中小一時間もうろうろしてしまった。どうしてこうなのだろう。私ってほんとにだめな人間なんだ。なにが「夢はパソコンインストラクター」だ。地下鉄にすら満足に乗れないくせに…。追い討ちをかけるように娘夫婦からメール「今度の週末は行けません」――なんてことだ!孫と遊ぶことが最大の癒しなのに…。


 
 そんな日曜日の午後は、灰色の重い空を見ながら濃い緑茶と共に「いちご大福」を食べる。いちごの甘酸っぱさと香りをあんこがまったりと包んで皮の餅がさらにそれをもっちりと包む――この絶妙な連係プレーが口の中に豊かな「春」をもたらしてくれる。

 2個も食べるとさっきまでの憂鬱感が消えて、不思議と元気が出てくる。そうさ、人生こんな時もあるさ。今週だめでも来週がある。今月だめでも来月がある。くよくよしてもしょうがない。少し思い上がっていた自分が悪いのだ。「ごめんね」ってメール打って、よぉしまた頑張ろう――そんな気分にさせてくれるのが「いちご大福」である。

 50年も人間やっていて、「いちご大福」ごときで立ち直れる単純な奴というなかれ。小さな緩衝材をあちこちに用意しておいて、躓いた時うまく素早く立ち直れるのが本当の大人の人間といえるのだ。





 1.苺は好みのあんこで包んでおく
 2.もち粉80gグラニュー糖60g水120cc
   を耐熱容器でよく混ぜ混ぜしてレンジで2分。
   更に混ぜ混ぜして1分30秒チン
 3.片栗粉にとって、適当にちぎり掌で伸ばして
   1の苺を包む

 ※簡単でしょ!?作ってみてね
 

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