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      医者の選び方
こまきみどり
 
 4人の医者に診てもらうことになった。
 最初は歩いていける整形外科だった。5月の終わり、気温30度以上の、日差しが痛く照りつける、出かけたくない日だった。明けがた目がさめて、右肩が痛くてたまらないので、痛み止めでもだしてもらえれば、と思ったのだ。2週間ほど前にタケノコ狩りをして、竹篭をしょおうとしたときグキっとなった。おまけに欲張って篭いっぱいに背負って、雨の坂道を下りた。重い、疲れる、風邪ひく、と思ったものだった。いつもの森の学校のメンバーで酒を飲み、1時間ほど運転して家に帰ったときは暗くなっていた。それからタケノコ三昧の日々だった。五十肩だろうと軽く見ていた。
 待合室は殺風景で白い壁はつめたく、読むものもなく、誰もいない。受付の女性も美人だが感じが悪い。おまけに看護婦さんも血液検査をするのに痛い方の右腕から血を採ろうとする。それはいいがなかなか採れない。血管が細く採れないと言う。腕から取れないので手首から採ることになり、何回も針を刺し、いつまでも痛いのだった。レントゲン撮影も痛い方の肩だけだった。肩だけでなく二の腕も指も痛くなっていたけれど機織りや、ネイチャークラフトのせいだと思っていた。右肩は五十肩だと思っていた。しかし、血液検査の結果、リウマチだといわれた。消炎鎮痛剤と貼り薬をもらった。こちらの情報はあまり聞いてくれず、血液検査だけで、信じられなかった。薬局で、薬を受け取るとき、「どういう薬ですか」と若い男性に聞いたのだが、「強い薬で、痛風の人に出す薬だから、よほど痛いんですね、お大事に」といわれとにかく飲んだ。薬はよく聞いた。その日は痛みを感じない。翌日も飲んだ。肩の奥のズキズキがなくなり楽になった。しかし午後には気分が悪くなり、吐き気がひどかった。もともと胃腸が弱いけれど、不安になった。インターネットで調べてみた。薬の名前をヤフーで検索すると、リンデロンはステロイドだった。ステロイドはホルモン剤で副作用が問題になっている薬で、わたしには向いていないと思う。直ちにやめて、ほかの整形外科を探すことにした。やはり人の話をよく聞いてから治療するべきで、診断はすばやく正しくても、大事なのは治療方針ではないか。患者ではなく病気を診ている医者というのが多いと思う。薬の効き目はぴたりと当たり、痛みが取れたのだから感謝すべきで、名医なのかもしれないが、どういう治療を望むかは、患者が決めることだ。決められずに医者任せの患者が多いことも事実だが、わたしは副作用の少ない漢方薬での治療を選ぶことにした。
 
 市の保健センターに電話して、おくすり相談窓口につないでもらい、わけを話すと、医師会にかわってくれた。たまたまそのときいた人が、個人的に知り合いという近くの整形外科で漢方薬を処方してくれる医院を紹介してくれた。電話番号を聞いてさっそく電話したのが3時頃で、受付の若い女性らしい声が、親切に道順を教えてくれた。車で5分、わかりやすかった。この日も異常な暑さで、住宅街は人通りもなく静まり返っていた。だれでも体調を崩しそうな炎熱の、6月とは思えない気候がつづいていた。
 入り口は階段のほかにスロープがあり、てすりがある。ドアを開けると受付のさっきの電話の人らしき若い女性が顔を出し、「先ほどのお電話の方ですね」と、てきぱきと事務手続きをしてくれた。待合室は座る場所もないほど込んでいる。水槽には金魚が泳ぎ、大きな花瓶には鉄砲百合がたくさん活けてある。血圧計は自分で計るようになっていて、イスがおいてあり、電源が切ってある。使うときに入れて、使わないときは切っておく、という考えがわたしには気持ちがいい。こういう細かいところで、うれしくなる。壁にはやたらに、教訓じみたことが貼ってあり、あまりうまい字ではないが好感が持てる。公衆電話があり、タクシーがすぐ呼べるように電話番号が大きくかいてあるのもいい。本棚にはNHKの趣味の園芸とか漫画などがたくさんある。大きな柱時計には贈、なんとか警察と、金色でかいてあった。確かに警察と整形外科とは縁があるのかもしれない。香港なんとか院の免許皆伝もはってある。中国のおみやげのような、けばけばしいピンクの羽のようなものがひらひらしている。高齢の女性に話しかけられる。「お若いのにどうしましたか」ときいてくれるので、実は、などと話が弾むまもなく順番が回ってきた。レントゲンは左右の肩を撮った。左右くらべて異常なし。念のため血液検査をする。看護婦さんは「ごめんなさいね」といいながら腕に注射針を刺す。痛いと思うまもなく一回ですんだ。ベテランの看護婦さんの仕事は素早く苦痛はなかった。漢方薬の方が安心して飲める。保険も使えるので、安い。自分の判断で店で買うと高いし、まちがいもある。たとえば、葛根湯は風邪のひきはじめ、肩こりにきくけれども、胃腸の弱いわたしには成分の中の麻黄が強いため下痢になる。処方してもらった二じゅつ湯は五十肩の痛み止めで、リウマチじゃない、と安心させてくれたのはいいが血液検査の結果は同じだったのだから、医者によって診断がちがうということになる。ただ、肝炎を疑われ一度調べたら、といわれる。リウマチの特徴としては、朝の手のこわばり、左右対称に関節の痛みが出る。わたしの場合は右だけで、このときは、まだ指に異常はなかった。しかしのちにでてくるのだった。
 
 ちなみに、中国漢方が教える生活の知恵「医食同源」、体を冷やさない食べ物を紹介しよう。ニッキ、唐辛子、ニラ、にんにく、らっきょう、羊の肉これらは熱性の食べ物。カボチャ、餅米、やまいも、栗、胡桃、黒糖、ねぎ、ショウガ、ピーマン、もも、さくらんぼ、銀杏、牛肉、鶏肉、これらは温性の食べ物。
 寒さや、冷えなど寒冷性の邪気を払い、活動エネルギーの不足を補う作用、新陳代謝を活発にする作用などがある。外で仕事をする人や、冷房のきいたところで仕事をする人、座りっぱなしで仕事をする人などにおすすめしたい。
 
 さて、3人目の医者に出会うことになる。というのは、灯台もと暗しで、すぐそばに、リウマチ科があったのだ。しかも、5月のタケノコ狩りの前に、眠れない日があり、眠剤をもらいにいっていたのだ。その時は、内科だったのでリウマチ科もあることには関心がなかった。この医者はもしかしたら、おさななじみで、遊んだことがある人かもしれないと思うと、少しイヤだったのだが、わたしは子供時代は喘息で、この医者の父に当たる人に、よく往診に来てもらっていたのだ。そのことをいって、お父さんにはお世話になりました、というと親父は親父だから、とあまり顔色も変えず、愛想がない。よけいなことを言ってしまったらしい。年が離れているから幼なじみではないらしい。無口な医者なのだった。そのぶん、こちらの話を聞いてくれるのはいいことだと思う。レントゲンも撮らず、血液検査もせず、わたしの話だけで、精密検査をすすめられ、腕と足の関節の触診で、リウマチだという。漢方もいいが、ステロイドは使い方しだいなのだという。非ステロイドの消炎鎮痛剤ロキソニンとムコスタという胃薬をもらう。北里大学病院か国立病院か紹介状を書いてくれることになる。どちらがいいかきかれる。
 国立相模原病院の方は、この先生のもといたところで、全国のリウマチ、膠原病のセンターになっていて、最新の治療が受けられる。北里大学病院の方が近いが、無機質な新しさが好きになれない。しかもすごく混んでいるのが常だ。国立の方に行くことにして、翌日には行った。7月7日になっていた。
 この日も熱く、朝から気温は30度以上あり、車で20分ぐらいだろうか、わたしは恵まれている方だな、と思った。駐車場はがら空きで、こんな不便なところにバスで来る人が多いらしい。元陸軍病院だったところで敷地が広く平屋づくりで、松の大木などあり、駐車場は松をよけて止める感じで、そういうむだに見える広さが好きだ。使われていない病棟もあり、全体に古い建物で、こわい。国立といっても通称になっていて、独立行政法人国立相模原病院というのが正しい。国がつぶそうとしていたのだが市民運動などで、継続しているとか。確かに合理化すべきところもあるのかもしれない。地図を見ながらでないと病院の中で迷子になる。医者にしては髪が長く、だらだらしたやつが待合室で患者と話し込んでいる。ありえない。みんな忙しいだろうが。朝、8時30分には、初診の受付をして、待つこと3時間、ここで、4人目の若い医者に出会うことになった。
 
 長くなってしまったので、次回にする。免疫異常というのは難病で、原因不明のまま、増えてきているのだという。リウマチもそのうちのひとつで、気がつかないでいると、合併症のほうがでて、対症療法でしか治療できない。たとえば、肝炎、腎臓、心臓、肺炎などの症状の裏に潜んでいるかもしれないのだ。免疫異常については次回に詳しく書きたいと思っている。みなさん、健康も自己責任だからね。

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