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       ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す

        君も雛罌粟こくりこ われも雛罌粟こくりこ         与謝野晶子

 

       に倦みて 雛罌粟ひなげし

                            いよよ くれなゐに     木下夕爾




 




 

  虞美人草

古代中国、楚の国の項羽こううと、漢の国の劉邦りゅうほうの最期の戦いのとき、項羽は愛する虞妃ぐきとともに劉邦の大軍にまわりを包囲された。項羽は別れの宴をして楚の国の歌を歌ってから(これが「四面楚歌」のことばの由来)、最後の出撃をし、虞妃も自刃して殉じたが、彼女のあとにヒナゲシの美しい花が咲いた。そのため人々はこの花を「虞美人草ぐびじんそう」と呼んだ。



 

   ひなげし  Papaver Rhoeas L.        〔けし料〕

 ヨーロッパ原産で徳川時代に我国に入り、観賞用として庭園によく植える。高さ50cm位で全体に粗毛がある。茎は直立して、まばらな分枝がある。葉は互生で羽状に深裂し、裂片は線状皮針形で鋭く尖り、辺はぎざぎざになっている。2個あるがく片の外画には粗毛があり、緑色で白いふちどりがある。これは楕円状舟形で花の開くにつれて先におちる。5月頃各枝の先端に4弁の花を開く。つぽみは下を向いている。花弁はほぽ円形をしているか広円形で光沢があり、長さは3~4cm位で相対する2弁は他の2弁よりも大きい。花の色は真紅が主であるけれども栽培によっていろいろに変化する。多数の雄しべをもつ。中央には倒卵形で基部がせまくなった子房がある。この長さは1.3cm位。柱頭は放射状で子房の頂上を傘のようにおおっている。

 〔日本名〕雛げし(または美人草)は、そのかわいらしい花の様子にもとずいている。〔漢名〕麗春花、虞美人草。

-牧野植物図鑑-





  与謝野晶子の雛罌粟を読んだ歌は初めてですが、いいですね。「火の色す」ですよ。この激しさはどこから出てくるのだろか。こんな女性に愛されたらどうだろか、真っ赤なポビーそのものの心、こちらが赤く染められてしまう。

  初夏の川の土手に咲き乱れる雛罌粟、そこに日傘の婦人が歩いていれば、印象派の絵である。雛罌粟には麻薬成分はないというが、友人の話だと、先祖がえりを起こし弱い幻覚を引き起こすものがあるという。可憐さと麻薬性といった対比が何よりこの花の魅力である。バラととげとは性格を異にした魅力である。

  いつか荒川の土手に雑草化した雛罌粟が何キロも続くところがあった。きれいに整備され花壇たより、野生化した花の方が美しい。明るい日差しの中、赤や黄色の花がほかの雑草の中に点々とずうっと続いていた。 (M)

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