路頭
八木雅弘
●人間よりも人間の使う道具のほうが、いのちに近い。
●匂いは皮膚であり、皮膚は匂いであり、脱ぐだけでは到らず、洗ってはじめて更(か)わる。
●空を遮って流れるものを空に含める。空を遮って重なるものを空に含める。ならばここで空を遮ってはためいているものを空と見做してもよいはずだ。はためいて、はためいて、はだかったまま奪われて乾いてゆく。
●木と、もう一本の木が重なって見える。手前の木に真横から朝日が射して鮮かに耀やき、向うの木に風が渡って葉がいっせいにそよぐ。目が、私の目が先ず行ってとらえる。とらえて、目はここに残る。燃えあがるような木と舞いあがるような木のあいだのとらえがたい距離へ、私のからだがここからすでに入り込んでいる。
●路頭を子らに与えよ。
(今回はおじいちゃんが死んだのでこれだけだそうです。)