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江戸の秋・八月の風物 食材 

 








 









  

 

 注1 : 紋日 ◆正月や節句など特別な日が遊ぶ
          場所にはあり、その日には遊女は
          必ず客を取らなければならないし、
          客は特別な値で遊び、
          祝儀を各方面に出す。

 注2 : 千日紅 ◆千日咲いている、長い間咲く
            草花の称。花は紫紅色。
            夏から秋遅くまで咲く。千日草。

 注3 : つかみ納豆 ◆包丁を使わないで、
            手でつかんで入れる料理法か。


 

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 ●八朔はつさく 八月一日。この日、昔は頼む人に贈りものをしたという。江戸時代は、武士にとって大切な日で、「惣登城」といってお目見え以上の侍はすべて江戸城に登城した。それ以外の人たちにとっては、幕末期になると格別のことをしない。吉原の紋日(注1)の一つ。

 ●八月十五夜 賞月。俗に月見という。三都とも今夜、月に団子を供える。しかし京坂と江戸では少し違う。江戸では図のように机の上の中央に、三方に団子数個を盛って花瓶に必ずすすきを差して置く。すすきには千日紅(注2)などをそえる。この机は手習い師匠の家に持って行き、引き出しに筆や硯や紙、手本などを入れ、京坂のように別に文庫などは待って行かない。ついでにいうと、江戸の手習いをする子は必ずこの形の机を使う。

 月見の団子は江戸は真円まんまる。京坂でも机の上に三方を置き、その上に団子を盛ることは江戸と変わらない。しかし団子の形は必ず図のように小芋の形にする。しかも豆粉に砂糖を加えてこれを衣にしたり、或いは醤油煮の小芋と一緒に三方に盛る。各十二個で、閏月がある時は十三個を盛るのを普通とする。

 江戸ではこの日、もしほかに行って酒食を供されたり、泊ったりした時は必ず九月十三日にも再度行ってこの日のように泊るか、供される事とする人がいる。これをしないと「片見月」といって忌む事とする。片身ということを嫌う意味だろう。従って、この日はよそに泊らないことにする。

 ●名月 『俳諧歳時記』を見ると、八月十五日の月を名月としてある。別に、名高き月、けふの月、今宵の月、十五夜、三五月、月見などと見える。中秋十五夜の月を観賞することはかなり昔からあったようで、日本でも中国でも行なっているとある。民間ではこの日、団子を作り、その団子を盛った容器に芋(この場合のいもとは里芋のこと)と枝豆を盛り、神酒と尾花、つまりすすきを月に供えるともある。また、中国の説として、この日雨が降れば来年の元日は快晴、晴れれば来年の元日は雨があるとしてある。この歳時記の著者が数年試みてみると、この説はほぼ当たっているとも書かれている。



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 ●初鮏はつさけ 一般には「鮭」と書くが、これは誤りだと『俳諧歳時記』には出ている。そして、常州水戸の人が初鮏楽しみに食べることは、江戸の人が初鰹を喜ぷのと同じようだともある。値段もかなり高価なものだとも書いている。

 はららご すじことも書くが同じで、鮭の子。一般に魚の子は「はららご」と呼ばれたが、中でも鮭の子をこう呼んだようだ。『俳諧歳時記』では八月の中に入れてあり、秋の季語としていることがわかる。


 ●八月の魚と野菜

 「膾の部」 鯖、鮭のはららご、さよりが魚類。鯖は海月くらげと辛子酢味噌に。鮭のはららごは、しらが大根と。さよりは焼き松茸と煎り酒山葵。

 「汁の部」は野菜が主。菜、芽独活めうど、切り玉子。小鳥のたたき、つかみ豆腐(注3)、柚。初茸さいの目、鯛のすり流し。

 「猪口の部並ぴに和え物」 いりこ、この場合は小鰯の干したものだろう、これに味を付けて芥子和え。蓮根は湯煮して醤油付け焼き。柿の白和え。




筑摩文庫『江戸あじわい図譜』高橋幹夫著 より