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たくま――最愛なる者への追悼記

                               菅野  幸江

たくまが死んだ

それは突然の死だった

さよならも言わずに たくまは旅立ってしまった… 膿胸による急性心不全…

平成14年5月26日 8歳6ヶ月――あまりに早い旅立ちであった

 

たくまが家にきたのは 下の娘が高校受験の最中の12月だった

体長20cmにも満たない「ミィーミィー」鳴くばかりの 生後1ヶ月のオスのヒマラヤン血統書付ーー

まんまる目は明るいブルー、体毛はベージュの長毛、耳と手足と太いしっぽが黒く、鼻はぺしゃっと潰れた愛嬌のある顔立ち

洋猫なのに何故「たくま」なのかとよく聞かれたが、我が家では3番目に生まれた長男として育てようと決めていたから 日本男子名にしたのだった

「猫ミルク」を与え、こたつに寝かせ、トイレと爪とぎの躾をし、我が娘以上に気を使って育てた。 そのせいか、ちょっとわがままで神経質な子でもあった

リビングの幸福の木によじ登っては 降りられずにミィーミィー鳴いていたたくま

カーテンを登ったはいいが爪がひっかかってぶら下がり 助けを求めていたたくま

雷が大嫌いで ゴロゴロ鳴る日は 洗濯機の脇の隙間にもぐって耳をふさいでいたたくま

臆病のくせにベランダに出ては カラスや鳩にガンとばされて逃げ帰っていたたくま

はじめて捕まえた「セミ」を遊び友達と思い ベロベロに舐めて半殺しにしたたくま

にんべんのおかかを開けると どんなに遠くからでも飛んできたたくま

朝寝坊のママの毛布をくわえて剥がして いつも起こしてくれたたたくま

テレビの上に寝そべってしっぽをたらし 画面を遮ってひんしゅくをかっていたたたくま

パパやママの帰宅の足音を10m先から聞き分け ちゃんと玄関で待っていたたくま

自分を「猫」だと自覚したことがなくて初めてよその猫を見たときは驚愕していたたくま

下の娘の兄貴面して 夜遅く帰宅した娘にかみつきの「制裁」を与えていたたくま

「たくま おいで」と呼ぶとママの膝にのってきて耳掃除してもらうのが大好きだったね

孫の大樹君のために買った「チャイルドシート」なのに 気に入って寝場所にし、とうとう奪い取ってしまったたくま

 

そう、たくまーーおまえは我が家の大切な息子だった かけがえのない命だった

家族関係が険悪な時も おまえの邪心を知らないその大きな瞳が どんなにみんなの和みになったことだろう 日々の喧騒に疲れた時も おまえのしなやかな仕草が どんなに私達の癒しになったことだろう

「ただいまぁ」と扉を開けて「にゃぁー」とでむかえてくれる者のいない寂しい夕暮れ時に 私達はまだ慣れないでいる

それぞれの心にぽっかり空いた「洞穴」の寒さに 私達はまだ慣れないでいる

たくまのいない世界が 時間が「流れている」不思議に 私はまだ慣れないでいる

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