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萩の花、尾花、葛花、なでしこの花、をみなへし、また藤袴、朝顔の花 

山上憶良

我が岡に、さを鹿来鳴く、初萩の花妻どひに、来鳴くさを鹿

大伴旅人

 

やまはぎ(はぎ) 〔まめ科〕     

Lespdeza bicolor Turcz.var.japonica Nakai

各地の山野にひちく分布してはえる落葉性低木。高さ2m内外。多くの細い枝を分枝し枝には短かい徴毛がある。葉は互生して1~5cmほどの細長い葉柄をもった3出複葉で、小葉は広惰円形または広倒卵形、先端は円形、あるいは多少凹む。しかし若い枝から出る葉は先瑞が鋭形、基部は円形でごく短かい柄がある。表面にははじめ微毛があるが後には無毛となって緑色、裏面には短い微毛があって、白色をおび、特には無毛のこともある。秋に梢の頂部の小枝の葉腋から多数の長い総状花序を出し、紅紫色の花をつける。がくま中央部まて深く4裂し、上裂は全縁かあるいは浅く2裂する。花弁は長さ1cm。翼弁の世は濃く、ほぼ竜骨弁と同長、竜骨弁は多少内側に曲って、先端は鈍形。豆果は平たい楕円形、熟しても裂けない。中に1個のI種子を生ずる。今から1千年余りも前に歌よまれた秋の七草の一つである。〔日本名〕ハギは生え芽(キ)という意味で古い株から芽を出すのでこの名がついた。昔はハギを芽子と書きまた芳宜草とも鹿鳴草とも書いた。萩という字は日本字で、本種が秋に花を咲かせるので、草冠りに秋と書いてハギとよませた。したがって、中国の萩とは何の関もない。〔漢名〕 一般に胡枝花をあてている。北海道には本種の母種エゾヤマハギ(var.bicolor)があるが、葉質がやや厚く、先はとがり、下面の毛が長い点で区別てきる。 

牧野植物図鑑

 

 豆科のこの植物、夏から秋にかけ野や里山に小さな赤紫の花をつけたのが見られる。濃い緑に紫と殊更目立つ花とは思われないのに、万葉集には141首に登場するという。何故に古代からこよなく日本人に愛され続けてきたのか、20世紀人の僕には少し分からないこともある。今のように派手な園芸植物が少なかったためか、「紫」という色のもつ神通力のためか、豊穣の季節の始まりを告げる花だからであろうか。古代人はこの花と「露」や「鹿の声」と合わせ、秋の渡来を喜び、秋の深まりに感じ、色ずく紅葉まで愛したという、また雌を呼ぶ牡鹿の声は恋する女、恋しい妻への思いを呼び起こし萩の花と重ね合わせることで、更に色添え思いを深めた。小さな花に喜びや哀愁や恋心を感じた古代人の繊細さはなんとすてきなことでしょうか。

(まもる)

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