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「やまねこのお酒」
麻梨
 
 昔々、ある島に『やまねこ』がたくさんおった。と・・・深山に住む猫で、とても用心深い。眼は丸く鋭く、動きは俊敏。姿はとても美しいという。
 その深山に住むという猫のしっぽでお酒を作る職人の話である。
 
 
 俺は、猫をつかまえるのに何日も、何日も、小川を渡り、魚をとり、途中、わずかな火をたき、食事を作る。「にぎりめし」がやっぱりうまいな。玄米に赤米を混ぜ、塩少々、寒い晩は、ねぎみそをぬって焼いたのを持ってゆく、そして酒をちびりちびりと槍ながら暖をとり、「山の猫を・・待つ。」
 魚のにおいをさせればたちまち集まってくるよ。山の猫は、魚が好きだからね。
 僕のちゃんちゃんこは、とった猫の皮だ。山の猫たちは満月になると会議があるらしい。あっちの小川で魚をいっぱい見た。とか、あそこの山の炭焼じいさんの離れの山側に魚のあらがいっぱい捨ててあって、畑を堀っくり返さなくても、ごはんが食べられる、だの、でも他のケモノもいて大ゲンカになってたいへんだったとか・・。「またたび」の大豊作とか、
 最近、山猫狩りがたいへん増えたとか、まん丸のお月様の下で深山の猫達の宴をしつつ話しておるらしい。と・・・
 職人は、何日も何日も、山を歩き、寝泊りをし、ぎんなんをひろったり山の幸を集めつつ、「ここだ!」という所で、太い樹の棒で地面に大きな穴を掘り、その穴の底に川でとった魚を置き、穴の所にむしろをかけ、また、その上に落葉を敷きつめむしろのまん中に魚を起き、山猫が来るのを待つのである。「ふっふっふっ、これで深山の猫がかかる。」
 職人は、そんな方法で、何ヶ所も罠を仕掛けているのである。何と簡単なことでしょう。深山の猫がかかる間、やっぱり、職人は海まで降り、貝をとったり、海の魚をとったり、せっせ、せっせと働くのでありました。
 海の向こうを眺めますと、遠くの漁船はスピードを増しながら右往左往している様でこの国の船ではない事がわかります。そうこうしているうちに魚はバンバンつれてしまい。そろそろ猫の方が気になってきました。
 そろり、そろりと罠をかけたところに戻りますと、むしろはなく、穴がポッコリ・・・
 「うふふ、つ・か・ま・え・たっ!」
 穴をのぞくと、深山の猫は、穴の底で一心不乱に、お魚にがっついていたのでした。
 お腹がいっぱいになると、腹を上にして満足気に寝ています。そこを、大きな袋を持って穴に降り、つかまえる訳です。
 職人のシンプルな技とは、このことを言うのでしょう。意気揚々とお土産をいっぱい持った職人は、魚を近所に配り、深山の猫をいっぱい捕まえたぞ!今晩は酒盛りだ。
 職人は、刺身をつくり、貝を焼き、ひろってきたぎんなんだのきのこだので飲んだくれてベロンベロンになりつつ、つかまえてきた深山の猫達を入れた小屋にちらりと眼をやると・・・
 やっぱりお魚をたらふく食っている・・・。
 腹はパンパン。しばらく虫達と遊んだり、毛づくろいしたりしていたが、少し休けいに入った様だ。やっぱり職人は、ベロンベロンもう一つベロンの状態。飲んでいるのは、この猫達で作ったお酒である。長いしっぽをちょん切って、しっぽの根元の所だけで作る。先のしっぽはちょん切っておくと、2週間程で子猫になり、猫の本体もしっぽがのびてくるのに、やはり2週間程たてば、無事に深山に変えれる様になるのだ。そうしないと、うまい酒も、種の保存もできない。過去に、悪い職人がいて、金もうけのためにたくさんつかまえてしまった為に深山の猫が減ってしまった。と、いうことは、酒をつくる事が出来ないし、山も、穴ぼこだらけ、ちゃんともとに戻しておかないと、きのことりのおばあ、おじい、子供達、酔っぱらったおやじが落っこって家に帰れなくなり、おかみさんが、心配のあまり怒り出すのだ。『浮気をしたのではないかと・・・』(笑)何せ、ベロンベロンでわけがわからなくなっているのである。困ったおやじだ。バクチはやるし・・・。
 このお酒は非常に美味しく、なぜか、フルーティーである。職人に、この酒の作り方を聴いたのだが、「企業秘密!」とおしえてはくれなかった。子供達は、「おやじの酔っぱらいは大嫌い。」だが、深山の猫をとてもかわいがり2週間経って、元猫としっぽ子猫を袋に入れまた深山に連れていくのだ。
 生命の大切さを学んでいるのだろう。
 数えうた(猫を数えるうた)をうたいながら親子であがっていく。
 深山の猫達が無事に冬を越し、来春になって雪の中からまた数を増やし、満月の会議で深山猫唄が山からきこえてくるのを楽しみにしているのである。  
 
 
 そんな話を、こたつに入りながら、お酒を飲まない、息子のコータローに話して聴かせている私である。コータローは傍らにしっかりと座り、耳をピンとたてて、私の話を聴いているのである。これこれ、犬の一人歩きはいけないよ。つかまっちゃうからね。

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